584e8597.jpg日本では未だ『BLUE DESERT』の呪縛から解いてもらえないマーク・ジョーダン。でも頭が硬直したままのAORファンを差し置いて、本人はもうずいぶん遠くまで歩いて来たようだ。アルバムがカナダでしか出なくなって久しいけれど、新曲入りベストを入れると、これが通算12枚目。Sin-Drome在籍時の『COOL JAM BLACK WORLD』(96年)が最後の国内リリースだから、エッ!!と驚く人もいるのでは? この新作も日本のファンが預かり知らぬところで、去年の晩秋あたりにひっそり発売されていた。
ちなみに、マークも一時は自分のレーベルから作品を出していた。が、99年作『THIS IS HOW MEN CRY』からはEMI Canadaとライセンス契約を結び、ナンと"BLUE NOTE"のロゴまであしらわれるようになっている。もちろんコレで箔がつくのは確かだが、当然アチラではそれに見合う高い評価を得ているらしい。要するに、いつまでもAORぢゃないんである。

御存知の方も多いと思うが、マークは元々シンガー・ソングライターとして登場した人。デビュー盤『MANNEQUIN』をスティーリー・ダンでお馴染みのゲイリー・カッツがプロデュースしたことから注目され、新しい作曲センスの持ち主と持て囃された。そして2nd『BLUE DESERT』をジェイ・グレイドンが手掛けたコトにより、彼のAORアーティストとしてのイメージが決定的になった。
 イヤ、今改めて聴き直しても、素晴らしいAOR作品だと思う。しかし彼は本来、サウンド・スタイルよりも歌詞で実力を発揮するタイプだった。そういう意味では『MANNEQUINN』の方がマークらしく、今の彼に通じるモノがある。でも『BLUE DESERT』が一部で高く評価されたため、しばしAOR道に手を染めるコトになったのだ。次作『HALL IN THE WALL』が日本製作だったり、『LIVE』が本国と日本だけの発売(後に仏でCD化)だったのも、何をか況んや、である。その後『TALKING THROUGH PICTURES』や『COW』でMr.Mister化(Yes化という説も!?)したのも、彼がAORに固執してなかった証拠。ロッド・スチュワートやマンハッタン・トランスファーにヒット曲を提供し、ソングライターとして名を上げたのも、これ以降のコトだ。そしてようやく自分なりの音を見つけ、ソロ・アクトとして、よりジャズっぽいスタイルへ踏み出したのは、93年作『RECKLESS VALENTINE』からだった。
 
だからこの新作も、BLUE NOTEの看板に相応しく、アダルティーなコンテンポラリー・ジャズ・ヴォーカルの作品。BLUE NOTEでジャズ・ヴォーカルといえば、当然ノラ・ジョーンズを思い浮かべる人も少なくないだろう。まぁ、ノラがヤング・アダルトならではの瑞々しさとフェミニンな女性らしさを武器にしているとすると、コチラはナイス・ミドルの渋味と風格で包み込む、といった感じか。地元トロントでの録音で、有名ミュージシャンは皆無だけれど、コール・ポーターに加え、ブルー・ナイル<From a Late Night Train>をカヴァーしてるあたりがポイント高し。他にもMolly Johnsonという女性シンガーとデュオってるジャズ・ボッサ・チューンや、どことなくブルース・ホーンビーを髣髴させる曲など、なかなか味がある。

最近、大人の遊びが注目されており、ジャズの復権が叫ばれている。ノラやダイアナ・クラールの人気振りがその典型だけれど、これは70年代末〜80年代初頭に起きたAORブームと似たようなメカニズムが働いてるような気がしてならない。そう考えれば、ボズ、ボビーやマーク・ジョーダンがジャズに向かうのは当然と言える。そんな流れが見えていれば、きっとマークのアルバムも日本で出せるだろうになぁ…。

ちなみにAmazon Ca.から取り寄せたこのディスク。サイトには何も書いてなかったようだけれど、到着したのはCDではなく、見事CCCDでした。まったくやってくれますよ、各国のEMIグループさんは(泣)