0050fb38.jpg書き仕事の合間の気分転換に、今日もレイ・チャールズ。こんなCD、持ってるのさえ忘れてました…。これは96年の作品で、遺作になった『GENIUS LOVES COMPANY』のひとつ前のオリジナル・アルバム。つまり元気な頃のレイが、現役として制作した最後のアルバム、といっていい。
しかもリリースはクインシー・ジョーンズのクエスト・レコード。元々深い絆で結ばれた2人だし、クインシーのアルバムでレイが<I'll Be Good To You>を歌って大ヒット、なんてコトもあった。しかし、レイがクインシーの元で自分のアルバムを出すのは、実はこれが初めて。まぁ、以前の所属レーベルとの契約とか、いろいろビジネス上の事情があったのだろう。でもクインシーは制作現場には顔を出さず、録音の大半はロンドンで行なわれた。これは意外である。

でも、映画『RAY』を観ると、2人の微妙な関係が何となく理解できる。彼らの出会いがレイ16歳、クインシー14歳の時、というのは、まさに運命的で驚いてしまうが、彼らはいつも互いを尊重し、付かず離れずの関係を保っていたと思うのだ。普段から互いを意識し、会えばそれぞれ自分の考えや視点を披露しあうが、それを相手に押し付けることはない。ただ困った時に、さり気なく手を指しのべるのが彼らの流儀だった。だからクインシーは兄貴分のレイと契約は取り交わしたが、それ以上は手を出さなかったのである。

そうして完成した『STRONG LOVE AFFAIR』、ココでは当然レイのヴォーカルが力強いし、何より前向きに音楽作りに取り組んでいるのが伝わってくる。打ち込みにだってダイナミックに渡りあってますよ。でも『GENIUS…』には、そうした気概は感じられない。確かに素晴らしいし華やかだけど、死を覚悟して作っているだけに、どこか悲壮感がある。いかにも完結編らしい作風なのだ。
 ずっとラックの隅でホコリを被っていたくらいだから、コレが出た時には「へぇ〜、爺サンもなかなか頑張ってるね」くらいの印象しか持たなかったのだろう。しかし、今になって、ようやくこのアルバムの意義に気づいた。これより少し前の作品だと、時流への意識がアダになったレイらしからぬ曲もあったらしい。それこそレイ流ニュー・ジャック・スウィングとか。でもこれは適度にオーセンティックで、適度に新しさがある。闇雲に今風の音に擦り寄るのではなく、リスペクトすべき大御所の目を通して、今様サウンドの解釈をやっていると言うか。それはまさにイギリス制作の成せる技。となれば、これはやっぱりクインシーの仕込みに違いない。

昨日はレイのグラミー受賞にクールなところを書いたが、それはもちろん、レイの受賞に難クセつけているわけではない。むしろ、ようやく報われたと喜ばしい気持ちでイッパイだ。ただ手放しで賞賛できなかったのは、賞の行方があまりに見え見えだったこと(その数には驚いたが)、死なないと偉大さに気づかんのか!(自分は思い切り棚に上げてといて…)というのが原因。特にこのアルバムを改めて聴き直して、その想いが強くなった。まったくオレも何を聴いていたんだか…。

というわけで、真実のレイを知るには、『GENIUS LOVES COMPANY』以上に必聴の一枚なのである。