b8e5abc3.jpgフリーソウルのブームで急に再評価されたユージン・マクダニエルズ。ロバータ・フラックが歌った名曲<Feel Like Makin' Love>の作者で、レニー・ウィリアムスやナンシー・ウィルソン、フローターズなどのプロデューサーとしても知られるが、もうずっと音沙汰が途絶えたままだった。そのユージンが昨年、なんと約30年ぶりにソロ・アルバムを完成させていた!!
ユージンは60年代初めから“ジーン・マクダニエルズ”名義で吹き込みを残し、ジャズ・ピアニスト:レス・マッキャンのアルバムにも参加している。しかし現在ソロ活動で有名なのは、フリーソウルやクラブ系のネタを収録した『OUTLAW』『HEADLESS HEROES OF THE APOCALYPSE』などの70年代初頭の作品だ。実際にア・トライブ・コールド・クエストやピート・ロックらがサンプリングに使い、ヒップホップのファンにはお馴染みになっていた。その後<Feel Like Makin' Love>のセルフ・リメイクを含む『NATURAL JUICE』をOdeから出し(名義はジーン)、こちらはよりメロウな感じ。しかしその後はプロデュースの仕事が忙しくなったのか、表舞台に経つ機会はほとんどなかったようだ。

70年代の作品がリイシューされた近年は、リオン・ウェアやジーン・ペイジの名を見て「ユージンは何をしてるのだろう?」と思うコトもしばしば。しかし今年の初めだったか、調べ物をするためネットをアチコチ徘徊していたら、偶然ユージンのサイトに行き当たった。そしてこのソロ・アルバムが完成したばかりと知って、あらビックリ。早速注文してみた。

30年ぶりの新作。しかも自分のレーベルを立ち上げてのリリースで、正直、あまり内容には期待していなかった。1935年生まれだから、もう70歳。マトモに歌ってればメッケモン…、それくらいの意識である。自主盤とはいえ、リオン・ウェアみたいにコンスタントに活動していれば自ずと要求するレベルが高くなるが、これだけ間が開いてしまえば、まずはご様子伺いになるのは自然の摂理。
しかし、それは余計なお世話だった。おそらくユージンは隠遁中(?)も、ずっと音楽に関わり続けていたのだろう。その歌は、とても70歳とは思えぬこなしをみせ、しかもユージンらしさを保ったまま、それなりに時代性とも渡り合っている。というコトは、復帰の準備はとうにできていたが、敢えてヒップホップやダンス・ポップばかりはびこる時代をやり過ごし、自分に相応しいタイミングを伺っていたのかも知れない。少し前に聴いたアンディ・ベイと似た感覚である。全体的にマニアックな作りではあるけれど、メロウさとグルーヴ・チューンのバランスもちょうど良いし、生と打ち込みの比率もイイ感じだ。

ユージンはシンガーであると同時にプロデューサーでもあるから、自分が出る所と引く所をキチンとわきまえている。したがってLeynaという若くて美形の白人女性シンガーや、息子(?)のマテオをフィーチャーした曲もあり。でもそれがシッカリ、ユージンの音世界を広げる役割を果たしているからサスガだ。やっぱりベテランはヒトの使い方が上手い。音作りに関しても同じで、細かい所まで自分で仕切るのではなく、あくまでまとめ役に徹している印象がある。だから音が古くならないのだろう。参加陣で馴染みが深いのは、アダルティーな4ビート・ジャズ・チューンでベースを弾くロン・カーターぐらい。

そもそも自主制作やインディー盤というのは、アーティストに自由がある代わり、どうしても客観性には乏しくなる。だからアーティストは、常に冷静な判断基準を保っている強い自分が必要だ。もしそれが無理なら、真剣に意見を戦わすことができる側近が不可欠となる。もしスタッフがイエスマンばかりだと、居心地は良くてもいわゆる“裸の王様”になってしまう。昔のメジャー・レーベルはアーティストと一緒になって切磋琢磨する姿勢があったが、今はセールスのためにメーカーの論理を押し付けるだけになってしまいがち。だから自我の強いベテラン・アーティストが、こぞってインディーに向かうのはよく分かる。でもそこに大きな落とし穴があるコトも知らねばならない。ボクも聴く前はそこを懸念したわけだが、30年ぶりのユージンは、しっかりとわきまえていたみたい。グレイト!

ちなみにジャケのユージンには、小さく"Then"と書かれている。そして裏ジャケには、白い髭を蓄えたユージンの"Now"が。その満足そうな笑顔を見ていると、これからのユージンにも大いに期待して良さそうだ。