4a864c37.jpg昨日のアーニー・ワッツに続き、今日もWounded Birdの新規再発盤から。そーなのだ、イングランド・ダン&ジョン・フォード・コーリーのBig Treeレーベル時代のアルバム4枚が、このたび一気にCD化となったのだ。でも日本では既に数年前のワーナー発"AOR名盤Selection”で、『秋風の恋』と『DR.ヘッケル&MR.ジャイヴ』がリイシュー済み。だからその間の2枚、この『DOWDY FERRY ROAD』と『SOME THINGS DON'T COME EASY』が世界初CD化となる。
一般的に彼らの代表曲とされるのは、文句ナシに<秋風の恋>。♪I'd Really Love To See You Tonight♪で締め括られるサビのフレーズが印象的なこの曲は、まさにエヴァー・グリーンな名曲として、今も時々ラジオなどで耳にする。基本的には爽やかなハーモニーが持ち味のヴォーカル・グループだけれど、ルーツはカントリー。いわゆるポップ・カントリー系のデュオで、イーグルスやポコよりも、もう一歩、カントリー寄りのスタンスか。

でもボクの好み的には、もろカントリーになっちゃうと正直キツい。分かりやすく言うと、スチール・ギターだけならイイけれど、バンジョーやマンドリン、フィドルがセットになって攻めてきたら、たいてい逃げます(苦笑) でも彼らの70年代後半の動きを追ってみると、ポップ・カントリーがどんどん洗練されていって、やがてはAORに巡り会うプロセスがよく分かる。レコーディングもナッシュヴィルからL.A.へ移り、TOTO勢やジーン・ペイジと組むわけだ。特にこの時期の彼らをプロデュースしてたカイル・レーニングは、デュオ消滅後に、かのウィルソン・ブラザーズを手掛けちゃう。イングランド・ダン&ジョン・フォード・コーリーなんてAORぢゃないじゃん!という人もいるだろうが、彼らの足跡がなければ、かの名盤『ANOTHER NIGHT』もなかった、そう断言してしまおう! だってそもそも彼らが最初に頭角を現したのは、この2人に曲を書いたからなのだ。

実際このデュオは、そうしたポップ・カントリー系、あるいはウエストコースト系の若きソングライターたちの登竜門的存在になっていた。<秋風の恋>を書いたパーカー・マッギーもそうだし、このアルバムからヒットした<It's Sad To Belong>の作者ランディ・グッドラムもそう。ウィルソン兄弟の他にも、グレッグ・ギドリー、ジェフリー・コマナー、デイヴ・ロギンズ、レイフ・ヴァン・ホイなどが当てはまる。そういう連中の曲はほとんどが脱カントリーで、むしろダンの自作曲の方がそれっぽい。というより、外部ライターの曲を積極的に取り込んで、デュオの向かう先を調整していたのだ。

こうしたベクトルがどんどん大衆化に向かった結果、最近のアメリカのヒット・チャートでこの手のアーティストが大きく華開いているのだ。リアン・ライムス、シャナイア・トウェイン、フェイス・ヒル、男で言えばティム・マッグロウ…。その背景には、世界中で秘かに進行するナショナリズムや右化傾向が横たわっていたりもするけれど、音楽的には「どこがカントリー?」って雰囲気。実際ヒットする曲は、ロック・バンドのパワー・バラードとかR&Bシンガーの歌い上げナンバーと、そう違いは感じない。アルバムを聴いて、2〜3曲カントリー・ルーツのマテリアルがあって、「あぁ、この人ってそっち方面の人なのか」と気づく程度だ。

でも、このデュオあたりでは、たとえシングル曲でも、それなりに持ち味が発揮されている。少なくても、誰が歌っても同じ、という作りにはなっていない。聴こえてくる歌声は柔らかくても、そこには先駆者たる気骨が宿っている。だから安心して身を委ねられるのだ。