82004e58.jpgAORシーンの歴史的名盤、AIRPLAY唯一のアルバム『AIRPLAY (邦題:ロマンティック)』の25周年スペシャル・エディション、発売までいよいよ3週間に迫って来ました。もういくつかの音楽誌からレビュー依頼が舞い込んできていて、皆さんよりひと足先にCD-Rで音を聴かせてもらってます。さすがにこのアルバムに出会った頃の衝撃はないけれど、こうして音が良くなると、まだまだ何度でも聴けちゃいますね。まったく飽きることがない、奇跡の名盤っすヨ!
このリイシューに際しては、角松敏生と冨田恵一という音のコダワリ派がコメントを寄せているそう。思い返せば、ボクがこのアルバムを初めて聴いたのは、25年前の角松敏生の家だった。その時はもうBozとかBobbyはソフト&メロウな洋楽ヒットとして耳にしていたけど、角松に「TOTOの先輩ユニットだよ」とアルバムを聴かされた時には、「ふーん、David Fosterは知ってる。George Harrisonとかと一緒にやってるよね。Jayナントカは知らないなぁ」とトンマな受け答えをしなら、「フムフム、なかなかポップでいいねぇ〜」なんて冷静に聴いていた。それから数日、妙にこのユニットのコトが気にかかり、輸入盤屋へ。まだ国内盤は発売されていなかった。そしてイソイソと買ってきたアルバムを針に落とし、1〜2度リプレイ。気になってたモノが、少しづつ衝撃に替わっていったのを覚えている。少々遅れてやって来るトウガラシの辛さみたいに。「もしかして、コイツらってスゴイかも!」 カナザワが盤面が白くなるほど一枚のレコードを聴き込んだのは、後にも先にもAIRPLAYだけである。

さて、今回のリイシューはCDになって2度目。つまり3枚目のCDということ。目玉は何といってもJay Graydon自身によるリマスターが行なわれたことだろう。2枚目の20bitリマスターも初回盤に比べて音が良くなっていたが、このアルバムの場合は元から音が中高音に偏っている傾向が強く、20bit盤でも低音の薄さは解消されていなかった。Jay自身も何かのインタビューで、そこが気になっていたと発言をしている。だからこの本人リマスターには、かなり期待していたのだ。

♪You are〜♪といきなりのハイトーン・コーラス、そう、お馴染みの<Stranded>の冒頭だけで、ステレオ感が増したのが分かる。アンサンブルも各楽器の分離効率が向上したのか、よりクッキリと聴こえる。特にFosterのピアノ、ドラムのハイハットがイイ感じだ。問題の低音はマッシヴになった印象で、ベードラとベースの絡みがハッキリ分かる。このアルバムって大音量で聴いてもスピーカーが箱鳴りした記憶がないのだけど、今回はそれがあった。それだけベースが上がっている。ただ、如何せん、元の低域の薄さは克服できず、ヴォリューム感には乏しい。バラードのベース・ギターを聴くとよく分かるけど、音の芯だけがビ〜ンと響く感じで、ふくよかさはない。いくらJayでも、やはりリマスターでは限界があったのだろう。こうなると将来的にはリミックスまでやって欲しいという思いが出くなる。シンセ類はなかなか良かったな。ポリフォニックの重層感が生々しくて、すごくイイ感じで鳴ってた。
とにかくこのアルバムって、今までは高音がキラキラし過ぎていて、音質的にはちょっと疲れた。でも今度のリマスターで、そういう印象は確実に薄まった。Jayのギターは若干引っ込んだ印象だけど、全体的なバランスは良くなったと思う。PCで小さな音で聴くと、ちょっとスッキリ引き締まった雰囲気かな。ただ今回はリマスターの限界も露呈してしまったのは確か。リミックスにまで持ってけば、まだまだ改善の余地はありそうなので、これは次の機会を待ちたい。

そして、この音のもうひとつの副産物があったので、ちょっと触れておこう。それは以前から懸案になっている参加ミュージシャンに関して。もう皆さんご存知だろうが、このアルバムには楽曲毎のクレジットがなく、参加者はアルバム単位でしか分からない。そこでマニアな連中の間では、この曲では●●が弾いてる、▲▲が歌ってる、などと、勝手に論議が盛り上がっていたのだ。今回のリイシューに際しては、ライナーを書いてる中田利樹氏が現地取材を敢行し、Tommy Funderburkを含むメンバー3人にインタビュー。更にドラムで参加したMike Bairdにもメールを送り、故Jeff PorcaroとMikeの区別を明らかにしようと試みている。
このドラマー当ては、以前カナザワも同人誌をやっている頃に、仲間と一緒にチャレンジしたことがあった。そのときの結果は、たしか<Nothing You Can Do About It><Should We Carry On><Sweet Body><Bix><She Waits For me><After The Love Is Gone>がJeffとしたのだが、これがケンケンガクガク。<Stranded>の足技はJeffでしょう、とか、いろいろと御指摘があった。でも今回のリマスタリングで、今まで聴きとりづらかったハイハットや右足のペダル・ワークが明らかに。そこで個人的には、<Stranded>はやっぱりJeffじゃない可能性が増したのはないかと思っている。<Cryin' All Night>はホント微妙。6:4でBairdかなぁ? 現時点では音と簡単な紙資料だけで、最新インタビューや解説までは見てないが、もう25年も前のことなので、JayやDavidの記憶もかなり曖昧らしい。さぁ、果たしてどんな結果になってるコトやら。

ちなみに今回のリイシューでは、何とも手回しの良いコトに紙ジャケ仕様の初回限定盤と、限定盤ではないプラケ仕様の通常盤 が同時発売とか。また紙ジャケ仕様では、当時のアナログ帯を完全復刻してるそうで、現状では表ヅラでの使用が禁止されている"旧RCAロゴ"を使うため、二重帯などという荒技を初めて使っているらしい。実はシロウトさんには分からないような工夫がしてあるのです。

クラブ方面から入ってきた若いAORファンが、AIRPLAYに「?」をつけるのは、分からないではない。彼らはJack Johnsonにシンパシーを抱くのだから、それも当然だろう。もちろんボクと同世代のAORファンの中にも、AIRPLAYはそれほど好きじゃない…という人もいる。けれど、それでもなおこのアルバムは間違いなく「AOR」のひとつの基準点であると思うし、日本の当時のミュージック・シーンに於いては、他のどんなAOAアルバムよりも強いインパクトを与えたのは確か。AIRPLAY周辺のミュージシャンに、今のサーフ・ロックみたいにユルーい演奏はできるが、彼らにAIRPLAYのようなテンションを効かせたサウンドは絶対作れないだろうな。