ef3e08d2.jpg午後0時から6時までに、神田〜神保町〜六本木一丁目〜虎の門〜新宿と移動し、5件のアポをこなすという超ハードな一日。中身は単なるブツの受け渡しからミーティングあり、インタビュー取材ありといろいろだけど、最後の新宿の目的地は歌舞伎町のコマ劇場。そう、ある筋からお誘いをいただいて、話題のミュージカル『WE WILL ROCK YOU』を観てきたのだ。その象徴となってるフレディーの銅像は、ちょうどこのジャケのようなポーズでしたね!
もう開演して2ヶ月が経ち、その好評ぶりは皆さんのお耳にも届いていると思う。そんなに右も左も大絶賛!となると、ヒネクレ者のカナザワとしては何かイチャモンをつけたくなるのだが、イヤ実際、ホントに面白かった。確かにストーリーは他愛のない近未来SF的勧善懲悪モノだけれど、そのスペクタクルな展開の中でクイーンの曲がどう使われるのか、それだけで充分楽しめて、退屈するところなど皆無。別に主役がフレディーに似てるとか、そういったコトはないものの、みんな歌うまいし。特に話の中心にいる女性陣3人は抜群の歌唱力で、悪役キラー・クイーンなんてパティ・ラベルを髣髴させた。

クイーンに関して言えば、ベスト盤に入っているような主要曲はほとんど使われている。だからキムタクのドラマでクイーンを初めて知って、『JEWELS』しか持ってません!なんて俄ファンでも、それなりに楽しめるだろう。でもクイーンを深く知る人には、それなりの楽しみが盛り沢山。例えば乱闘シーンのバックでは、『クイーンII』から<オウガ・バトル>の一部がSE的に使われていたりとか、ストーリーのアチコチに彼らの曲の断片があしらわれている。
 アレンジやバンドの演奏も見事。特にクイーン・サウンドの大きな特徴になっているギター・パートは、ツイン・ギターを効果的に使ってまったく違和感なく再現している。イヤ、ブライアン・メイ自身もライヴでのパフォーマンスには限界があったのだから、より本物に近いと言うか、レコードに忠実な演奏になっていた。おそらくギターのトーンやセッティングは、制作に関わったブライアン直伝なんだろうな。

それに忘れられないのは、微妙に日本向けにアレンジされていた点。今回日本に来ているのは英本国のキャストではなく(英では今もロングランが続いているそう)、公演が終了したオーストラリア・キャストだけれど、細かいギャグや演奏曲は、それぞれのお国事情に合わせて変えているそうだ。フィナーレ<Born To Love You>も、やはり日本向けのレパートリーである。ロック〜ポップスの偉人たちを回想するシーンでは、唐突に尾崎豊も出てきた。あと一番ウケたのは、悪の参謀カショーギが親玉キラー・クイーンに洋服の趣味を突っつかれる下り。「いつもアルマーニで気取ってるんじゃないわよ」なんて風に攻撃されると、すかさず「ハッハッハ! 今日はコ・ナ・カさ」「替えズボンもついていたよ」なんてね(笑)

まだ一ヶ月も公演が残っているので、あまり詳細は書かないが、全編を通して感じたことがある。それは、このミュージカルの原点は、あの<ボヘミアン・ラプソディー>にある、ということ。ガリレオとかスカラミューシュといった役柄もそうだが、何よりも、あの中間部の壮大なオペラを生で再現するにはどうしたらいいか? そこからミュージカル自体の発想が始まっていると思った。そのためには何人のシンガーが必要、じゃあそれをもっともらしく実現するには、歌劇〜ミュージカルしかない。そこでそのシンボルとしてフレディーが祭り上げられ、<We Will Rock You>がテーマ曲、<We Are The Champion>が凱歌になる。そうした素材が揃っているのが、まさにクイーンの個性。中世的・貴族的なキャラクターが、楽曲からアーティスト・イメージまでトータルに浸透していたからこそ、こうしたミュージカルの題材に成り得た。同じスーパースターでも、ビートルズやストーンズでは、こうした形にはならないだろう。現にビートルズが『SGT.PEPPERS』を発展させて作ったのはアニメだったし、同じく『SGT.PEPPERS』を題材にしたミュージカル映画は、ピーター・フランプトンやビージーズ、エアロスミスらが出演したにも関わらず見事にコケて、RSOレーベルを倒産に追い込んだのだ。
まぁ、頂戴したパンフレットをあとでジックリ読んだら、このミュージカルが<ボヘミアン・ラプソディー>から始まったことは書いてあったケド(苦笑)

というワケで、存分に堪能した『WE WILL ROCK YOU』。できれば8月末の終演までに、もう一回観たい。そうすれば、もっと細かく脚本のディテールを感じたり、演技や演奏に気を配ったりして、もう一歩突っ込んだ楽しみ方ができるはず。もちろんまだ観てないロック・ファンは、一度足を運ぶコトをお薦めします。