a2501b98.jpgあら、もう8月ですか! まったく今年ももうすぐ2/3が終わっちゃうわけで…。まったく月日の過ぎるのは早いモノです。まだ今月も始まったばかりというのに、前半はたくさん書き物を抱えてスケジュールいっぱいだし。ま、大変ありがたいことで、関係各位には感謝してますが、とてもとても夏休みなんて取れそうもありません(泣)
というわけで、今月の初っ端はハーブ・アルパート。かつては大ヒットを連発したトランペット奏者であり、あのA&Mの創始者。A&MのAは、アルパートのAであります。ちょうど彼の全盛期、ティファナ・ブラスを率いた時代のアルバムが数枚再発されるので、某誌の人物紹介原稿を書いてるワケ。でも単にキャリアを追うのではなく、カナザワなりの視点でハーブの偉大さや存在感を表現してほしいということで、ライナーみたいな濃い内容を要求されてる。

ティファナ・ブラスといえば、60年代〜70年代初頭に大活躍したわけだけど、その持ち味はマリアッチと呼ばれるメキシコ音楽を溶け込ませた、ちょいラテン仕様のポップス/イージー・リスニング路線。あの人気深夜放送オールナイト・ニッポンのテーマが、日本での彼らの代表曲になる。となると、ジャンル的にはカナザワの専門から外れるが、いろいろ調べていくとホントに面白い人物であることが分かる。

たとえば、ミュージシャン兼レーベル・オーナーといえば、まずアーティストとして成功してから、稼いだ金をつぎ込んでレーベルを設立するのが常。その根本動機は、まず自分が自由な音楽活動をしたい、というコトであって、他のアーティストの育成は会社を大きくする手段だったりする。ところがハーブは、最初からレコード・プロデューサーになりたかったというのだ。その最初の作品として、たまたま自分のトランペットをフィーチャーしてみたら、それが売れてしまった。つまり制作者ハーブが、トランペット奏者ハーブを偶然発掘したワケである。それで60年代は、アルバム・トップ10にティファナの作品を4枚も同時ランクインさせる記録を作ったりした。

ところが時代がニューロックの訪れを告げ、ティファナでチャート上位を狙うのが難しくなると、サッサと重心を裏方へ向ける。その途端にA&Mの新たな看板になったのがカーペンターズ。もちろんセルジオ・メンデスもクロディーヌ・ロンジェもハーブの息がかかっていたのだが、国民的スターになったという点では、カーペンターズには及ばない。そして79年始め。A&Mで働くハーブの甥っ子が、ティファナの曲をディスコ・アレンジにしてリメイクする企画を持って来る。ハーブは気乗りしなかったが、ちょうどA&Mスタジオにデジタル・レコーダーを試験導入したばかりだったことから、彼はそのチェックをかねてスタジオ入り。リメイク企画はアッと言う間にボツになったものの、空いた時間とミュージシャンを使って、急遽手近にあったマテリアルを録音した。それが名曲<Rise>。この時ハーブは、甥っ子を捕まえ、これはNo.1ヒットするぞ、と豪語したという。そして10月にはそれが現実となるのだ。この慧眼はたいしたもの。やはりハーブ、只者ではない。

ボクはどうも彼に対し、ビジネス遍重の人というイメージを持っていた。たくさんのアーティストを育てた大物で音楽をよく知っているけれど、如才ないというか抜け目ないというか…。ジャケットのアートワークに統一したイメージを持たせたり、ビートルズ全盛期にメインストリームを外したニッチ路線を狙ったりしたのも、彼ならではのセンス。ジャネット・ジャクソンの『CONTROL』が大当たりした直後、ジャム&ルイスをプロデュース、ジャネットをゲスト・ヴォーカルにしてアルバムを作っちゃうなんて、まさにレーベル・オーナーの横暴だ!くらいに思っていた。デキは素晴らしくカッコ良かったけど、それはジャム&ルイスのおかげでしょ!なんてヒネて見ていたのだ。

ところが89年、ハーブと相棒ジェリー・モスは、破格値でA&Mを手離してしまう。その時は、もうリタイアなんて優雅なのねと思ったが、ホントに驚くのはその数年後。2人は再び手を結び、ALMO SOUNDSという新レーベルを立ち上げたのだ。この時ボクは気づいた。ハーブは金儲けしたいのではなく、音楽人として、自分の目が行き渡るようなレコード会社を持ちたかったのだ。と。今回シッカリと彼のキャリアを追ってみたら、そういうハーブならではの音楽に対する価値観、芸術と算術とのバランス感、などがよく分かった。音楽に対してクールだからこそ、見えて来るモノだってあるのだ。

多くのロック・ファン、特に70年代を引きずる連中が振りかざす精神論なんて、ある種のキレイごとなのは分かっている。理想だけじゃメシは喰えない。だけどポリシーがなければ、他人を納得させるコトはできないと思う。その基準ラインを何処に置くかは、その人次第。音楽に携わる人にとって、ハーブの生き様は必ず参考になるはずだ。

いやぁ、それにしてもこの<Rise>。ゆたっりとしたダンス・ビートに、朗々とメランコリックなペットが響く名曲。ハーヴィー・メイソン、ルイス・ジョンソン、エイブラハム・ラボリエル、カルロス・リオスなんて有名どころも入っている(アルバム込みで)。ちなみにこの曲、イギリスではBPMの高いヴァージョンが流行ったそう。そのココロは回転数の間違いで、45回転の12インチが主流のイギリスに33回転盤の<Rise>が大量に入って来たのが原因だそうだ。