80436a72.jpg引き続きクリス・レアのライナー執筆と仕上げ。この2日間はクリス三昧だけれど、なかり好きなアーティストなので、しばし手を止めて聴き入ってしまう。特に思い入れが強いのは、『On The Beach』以前なら自分の音を奏で始めた『TENNIS』とこの『SHAMROCK DIARIES』『WIRED AND THE MOON』も捨てがたい。ブレイク以降だと『THE BLUE CAFE』かな。まぁ、ガイド本『AOR Light Mellow』に載せた新録ベスト『NEW LIGHT THROUGH OLD WINDOWS』は別格だけど。
改めて聴き直しても、渋くて地味なアルバム。だけどホンモノ。何処までもヒューマンで、人間らしいぬくもりがある。しかも浮ついたところが全然なくて、安定感がバッチリ。実はこうしたところって、カナザワのAOR観には重要なポイントなのだ。いくらアレンジが凄くたって、演奏が凄くたって、人間味が感じられなければ全然親しめない。譜面なんて、所詮ただの音楽記号なんだから。
ちなみにシャムロックというのはシロツメ草のことで、アイルラアンドを象徴する植物なのだとか。そういや手元にある3200円時代のCDは、『クローバー』という邦題だった(後に『シャムロック・ライアリーズ』)。もちろんクリスがアイリッシュの血を引くのに由来するわけだけど、アイルランドの人たちというのは、ホントに自らのアイデンティティをシッカリ守って行動する。感化されやすい日本人とは大違いだな。

で、このアルバム、とにかく曲が粒揃い。名曲<Josephine>をはじめ、<Steel River><Stainsby Girls><All Summer Long>と、ベスト盤でもお馴染みのナンバーがどんどん出てくる。この次が『ON THE BEACH』なワケで、多分コレがなければあのブレイクもなかっただろう。そうした意味では、クリス・ファンには絶対見逃して欲しくない作品だ。

そしてもうひとつ、メディアではあまり取り上げられないけれど、クリスの音楽に向かう姿勢がいかに真摯かが、よーく分かることがある。それは彼のバックのメンバーたち。キーボードはマックス・ミドルトン(ジェフ・ベック・グループ〜ハミングバード)、ギターはロバート・アーワイ(ゴンザレス〜ハミングバード)とサイモン・ニコル(フェアポート・コンベンション)、ドラムはデイヴ・マタックス(同じくフェアポート)、そしてサックスに英国きっての名手メル・コリンズ。まぁ「ロンドンのトップ・セッションメンでしょ!」といえばそうだけど、クリスのバックはいつもほとんど彼らだし、何人かはツアーにも同行してる。つまり、それだけバンドの顔ぶれに固執してるワケだ。シンプルなサウンドに微妙な陰影をつけて味を出すクリスだから、豊かな表現力と理解力を持つミュージシャンは必要不可欠なのだろう。カナザワなどは、マックスの揺らめくようなエレピのイントロが聴こえただけで、もうメロメロになってしまいます。