662074c3.jpg先週、某誌の名作ライヴ盤特集R&B編でルーサー・ヴァンドロスの03年ライヴの紹介を任され、彼のシルキー・ヴォイスにドップリ触れた。そうか、亡くなってもぅ4ヶ月か…。このトリビュート盤も本来は、闘病中の彼に贈る復帰祈願の応援作品として制作が始まったものである。それが結果的に、不幸にも追悼アルバムになってしまった。
ココに参加して歌った人たちにしてみれば、そこに込めたメッセージの意味合いが変わってしまったわけで、中には「ちょっと待って…」という人がいたかも知れない。事実、噂とは違ってRケリーが不参加だったり、総指揮と言われたジャム&ルイスがたった4曲しか参加していなかったり…。詳しい事実関係は分からないけど、ルーサーに対しては誰もが同じように胸を痛めていたのは間違いない。

参加したのは、アレサ・フランクリン、スティーヴィー・ワンダー、パティ・ラベル、エルトン・ジョン、ベイビーフェイス、メアリー・J.ブライジ、アッシャー、ビヨンセ、アリシア・キーズ…等など、多数の豪華アーティストたち。それぞれにルーサーへの熱い思いを、彼の歌に託している。特に聴きモノなのは、メアリー・J.が歌った<Never Too Much>、アレサの<A House Is Not A Home>、エルトンとルーサーの疑似デュエット<Anyone Who Had A Heart>、ベイビーフェイスの<If Only For One Night>あたり。いつもと違って情感を押さえた歌唱のセリーヌ・ディオン<Dance With My Father>も良かった。<Love Won't Let Me Wait>を歌ったジョン・レジェンドも、アルバムと違ってカナザワの心に響いてきたし。あと個人的にはルーサーのバラード群の中でも特に愛着のある<Superstar>を歌ったアッシャー。彼もルーサーのこと、大好きだったんだろうな。それが直に伝わってくる見事な歌いっぷりだ。

ただ、これがルーサー・トリビュートとして最良のものかというと、少々疑問。やっぱりディオンヌ・ワーウィックやダイアナ・ロス、ホイットニー・ヒューストン、テディ・ペンダーグラスといった所縁の人たちがいないし、それこそ盟友マーカス・ミラーがインスト・カヴァーで入っていても不思議はない。リサ・フィッシャーやフォンジ・ソーントン、タワサなどサポート陣も参加して然るべきだし、こういう時だからこそデヴィッド・ボウイやロバータ・フラックといったかつての親方、デヴィッド・ラズリーやアーノルド・マッカラーといったスタジオ・シンガー時代にチームを組んだ人の名もあって欲しかった。確かに参加者はすべて有名どころだが、ルーサーとの縁が見えづらい人もいるし、「あぁ、売り出し中なのね」という若手もいる。ルーサーをトリビュートしつつ、このビジネス・チャンスを周到に計算しているクライヴ・デイヴィスのしたたかさも同時に感じてしまうのだ。
それでも、ビヨンセやらアリシアやら、あるいはワイクリフ・ジョンやジョン.レジェンドらを媒介として、若い連中が「ルーサーって誰?」と興味を持ってくれれば、それが一番。ボクのようなロートル・ファンは、「やっぱりルーサー本人には負けとるわい」なんて宣いながら、昔のルーサーを引っ張り出して聴いてれば良い。

…にしても、ココで改めて確認できたことがある。それはルーサーはカヴァーの名人だったこと。実は全15曲中9曲が非ルーサー・オリジナル、早い話がルーサーがカヴァーした曲の孫カヴァーなのだ。前述した<Superstar>とか<A House Is Not A Home>、<If Only For One Night>などが好例だけれど、ルーサー自身が取り上げた楽曲の何割かは確実に原曲を超え、その曲のベスト・パフォーマンスになっている。たとえ、それに数多のヴァージョンがあったとしても、だ。でもそれに対し、ルーサーのヴァージョンを踏み台にして更にその上へ行った者は誰もいない。せいぜいアッシャーが肉薄しただけだ。ワイクリフみたいにオレ流を通すトリビュートもアリだが、その分完成度が高くなければ皮肉られるのがオチである。まぁ、ルーサーに贈る作品だから「超え」ちゃイケないのかも知れないが、きっと天国にいる彼は、自分を超える人材の登場を待っていると思うのだ。

追悼作品としては一級品の『SO AMAZING』。(リンク先は国内盤/安価な輸入盤は要注意のCCCD)でももし次があるなら、今度はマーカスあたりが音頭を取って、商売っ気抜きに作ったトリビュート・アルバムを聴いてみたい。インストではなく、歌モノ中心のね。