c7583fa5.jpg2000年にドリームズヴィルで奇跡のCD化がなされた『FULL MOON』紙ジャケ化。70年代初頭のヴィンテージ・ロック・アルバムであると同時に、以前から棚レコとして有名なレア盤である。最近はレア・グルーヴ〜フリー・ソウル以降の“俄・棚レコ”がはびこる中、72年の発売後数年で貴重盤に格上げ(?)されていた正真正銘のレア皿だ。だからAOR系でこれほど紙ジャケが似合うアルバムは、そうないだろう。
ただ、AORファンが“FULL MOON”と言われてすぐに思い出すのは、いわゆる80年代のLarsen=Feiten Bandだったりするんだよね。まぁ音楽的な完成度、洗練の進み具合は、確かにアチラの方が上。それに比べりゃ、こちらは黎明期に過ぎない。でも、だからこそ面白いと思うし、スマートになってしまったあの頃にはないようなチャレンジ精神や熱さを感じる。こちらはまさにブルー・アイド・ソウル、あちらはフュージョン/AOR。カナザワ的にはどちらもそれぞれに強い魅力があるのだ。

ではその違いは何処から? もちろん、当時のニューヨークの空気感、クロスオーヴァー化が進む音楽シーンというのは、大きなバックボーンのひとつ。でもそれを別項として、バンドそのものに目を転じてみよう。すると第一に、最初のFULL MOONはBuzzy Feitenの人脈から発生したバンドであり、Paul Butterfield Blues Bandでの盟友でカリスマ的存在感を持つ"Brother" Gene Dinwiddieが在籍したことが挙げられる。そしてBuzzy自身がRascalsのような指向性を発揮したこと。これは後にLani Hallがカヴァーする名曲<To Know>や、グルーヴィーな<Need Your Love>によく表れている。ちなみに<To Know>収録のLaniのアルバムは、Larsen-Feitenがサウンド・プロデュースを担当していた。さらにPhillip Wilsonのスティック裁きも、かなりジャズ・フュージョン的。それに比べてNeilの曲は、まったく以てそのまんまである。<Malibu>や<Midnight Pass>が『JUNGLE FEVER』『HIGH GEAR』といった名作ソロやLarsen- Feiten期のアルバムに入っていたとしても、大して違和感は感じないだろう。

つまりLarsen-Feiten Bandというのは、Neilのソロ活動の発展系なのだ。もちろん双頭バンドだから互いに譲り合っているが、ロック色のある歌モノとオルガン主体のインストが半々というのは、このオリジナルFULL MOONから2人のサウンドだけを抽出して濾過したようなモノではないか。だから2人の均衡が欠けていた02年の再結成には、Neilは参加しなかった。Buzzyもそれに配慮してバンドを"NEW FULL MOON"と名付けたものの、アルバムの邦題は『フルムーン・セカンド』となるあたり、彼らの微妙なバランス感が窺える。だってBuzzyは90年代のNeilのソロにつき合っているのだし。

でも、オリジナル時のFULL MOONが持っていた疾走感は、いったい何だろう?  演奏のノリとは別次元の高揚感があるのだ。当時はBuzzyがジャンキーだったから? 当然それも原因だろう。でもそうした熱気こそが70’sの音楽の魅力。いまドキの若い音楽ファンが、そうした生気を求めているのは間違いない。この紙ジャケ盤では新たに<Jam>という、文字通りのジャム・ナンバーがボーナス収録されているけど、11分に及ぶこの曲なんか、近年のジャム・バンド・ファンに聴かせたいと思ってしまう。そういう意味では、このオリジナルFULL MOONのスピリットを真っ当に受け継いでいるのは、ポップ化していくLarsen-Feitenよりも、彼らの曲を好んで取り上げたSea Level(元Allman Bros.のchuck Levellのバンド)だったりするのかも。けれどNeil Larsen抜きのFull Moonって、音楽的にはともかく、やっぱりHalf Moonのイメージだよなぁ…(苦笑)