4e3064e4.jpgバート・バカラックといえば、60年代から活躍するアメリカン・ポップスの大御所ソングライターとしてお馴染み。以前はA&Mからイージー・リスニングっぽいソロ・アルバムを出していたが、ここのところはElvis CostelloやRonald Isleyとのジョイント・アルバムで健在ぶりを誇示していた。まぁコチラとしちゃあ、作家として活動してくれれば文句はない。でもそこに唐突に『AT THIS TIME』なるアルバムが登場。サントラ盤等を除いた純然たるソロ作品としては、何と28年ぶりのリーダー作になる。

海外では11月にリリース。初めて輸入盤屋で見たときは、新しいコンピと勘違いしたほど。それくらいアーティストとしては現役感がない。実際,大物作曲家の28年ぶりの新作にしては、音楽ファンも騒いでないし、妙に静かでちょっと肩透かし…。オマケにアメリカ盤は最初、例のrootkit問題になったCCCD仕様で、すぐに回収対象になったらしい。ちなみにカナザワは初めからCCCD回避でEU盤を買ったんですが。

それがようやく2月に国内発売される。しかも同時に『WE LOVE BACHARACH』というオリジナル&カヴァーによる名曲集も発売。本腰を入れてバカラックを盛り上げるという寸法だ。ちょうど某誌でそのコンピのレビューを頼まれたこともあり、一緒に新作を再び聴き直してみた。

個人的にはバカラックといえば、オーケストラをふんだんに使った優雅なトラックがイメージにある。だから今ドキのシンセの音やループなんか出てくると、アレ〜!?って感じ。しかもDr.Dreのドラム・ループを使ってたりして。でも楽曲はやっぱりバカラックらしくて、インストやバラード系のナンバーに思わず和む。ヴォーカルは主にJosie Jamesほかのセッション・シンガーが取っているが、Elvis CostelloやRufus Wainwrightもゲストで参加。とりわけCostelloの熱いパフォーマンスは、今作のハイライトといえるだろう。バカラック本人もチラッと歌っているが、まぁそれはご愛嬌ということで。

でも当人にとってこのアルバムは、非常に強い主張を込めた作品であるようだ。今までラヴ・ソングばかりを作って来た男が、77歳にして政治的メッセージを発しているのである。それが28年ぶりにアルバムを作った動機なのだ。
「楽曲だけでなく、熱烈に自分の考えを表明する必要があったのです。私が今問うのは、『私達の人生を支配しつつある連中は一体何者なのか?どうしたら彼等の暴虐を止められるのか?』ということです。私には二人の幼い子供と19歳の息子がいまして、彼等の人生がこの先どうなるのかとても心配です。非常に個人的なことですが、それを歌にしようと決心したのです。このアルバムは私と、皆さんの子供達に捧げられています」
その3人の子供たちは、CDのブックレットにも映っている。特に次男は若き日のバカラックにそっくり。つまり彼は、その子らが戦争に巻き込まれるのを恐れているわけだ。

そういう予備知識を持ってこの久々のアルバムに接すると、確かにバカラックにしてはいつものスウィートさは影を潜め、少し内省的なメロディに仕上がっている曲が多い気がする。アチラのインタビューでは、“ブッシュは最も粗末な大統領”とまで語っているそうだから驚きだ。きっと自分が元気なうちに…という思いが募った結果なのだろう。そんな重みを持ったアルバムだから、日本で「バカラック=偉大な作曲家」だけで片づけられないことを願いたい。