4d4b690b.gifレココレ誌のレビュー原稿を執筆。割り振られたのは、先日来日したデオダートのMCA期(74〜76年)の紙ジャケ再発4枚と、ブラジル繋がりでエリス・レジーナの79年作。クロスオーヴァー・アーティストのデオダートはともかく、エリスのようなMPB(=ブラジリアン・ポピュラー・ミュージック)系シンガーは本来カナザワの専門ではないけれど、エリスは一部しか聴いてないものの好きなヒトだし、たまには良いんじゃないかと。自分自身の後学を広げる意味でも。

エリスといえば、一般的には69年の『IN LONDON』や、アントニオ・カルロス・ジョビンとの共演作『エリス&トム』(74年)あたりが有名。それに対して,少し時代が下がった『或る女』は、同時代のシンガー・ソングライターや若手作曲家の曲を積極的に取り上げた、コンテンポラリー時代の傑作にあたる。当時の旦那だったセザール・カマルゴ・マリアーノのアレンジが、まさに都会的なコンテンポラリー・サウンドを作っていて、言うなればブラジル産フュージョン・ヴォーカル・アルバムの佇まいを持っている。

カヴァー曲を含む作家陣も、バーデン・パウエル、ジョアン・ボスコ、ジョイス、カルトーラ、そして無名時代のギンガと、ブラジル物に詳しくない人でも知ってるような名がズラリ。とりわけジョスコの<酔っぱらいと綱渡り芸人>は、軍政ブラジル崩壊の象徴として広く親しまれた名曲・名唱。エリスが国民的シンガーと呼ばれる由縁のナンバーだ。さらにタイトル曲を提供したジョイスは、当時子育てで第一線を離れていたが、この曲が注目を浴びたことをキッカケに本格的復帰を決意。翌年、名盤『フェミニーナ』を生み出す。
音楽的にもスタンス的にも、何か特別なことをやったワケではないのに、このアルバムには様々なエポックがつきまとった。ふくよかで優しい空気の裏に、人の心を動かす高いポテンシャルが秘められていた。エリス自身も、とても円熟した歌を聴かせている。なのに本作から3年も立たずして、37歳で不帰の人になろうとは…。

しっかし、やっぱり本気でブラジル物を掘っていくと、マジやばそうです。例えば、旦那のマリアーノにも、83年にコイノニア勢やシーウインド・ホーンズが参加したブラジリアンAORの隠れ名作があるし(多分未CD化)…。なのであまり深入りせず、ジワジワとマイペースで聴き進めていくことにします(苦笑)