f2b41e8e.jpgカナザワが某新聞に仕込んだRenajaの取材に立ち会ったあと、角松敏生"Player's Prayer Returns"@渋谷AXへ。10日ほど前の目黒ブルース・アレイ3daysはアコースティック・トリオによるパフォーマンスだったが、このAXでの2daysはT's Gangと名づけた4ピース・バンドでのライヴ。ベースに松原秀樹が参加した形では、この日が楽日でもあった。

この日の角松は、ステージに登場するなりピックを投げまくって、いつになくノリノリ。本人も気分が高揚してるのか、「今日は緊張してるとかじゃなく、何も考えてないって感じ」と宣う。そして『Prayer』からの曲を立て続けに。いやぁ、アコースティックも良かったけれど、こうしてバンド・ヴァージョンを聴いちゃうと、やっぱしコチラの方が角松らしい。

でもいつにも増して感じたのは、結構チャレンジ精神の強いパフォーマンスだったのではないか、ということ。自分は思わず、オール新曲で固めた『存在の証明』エキストラ・ツアーでのステージを思い出した。新曲はTDK絡みの<Together>のみながら、久々にプレイする<時計>、ユル〜いミディアム・ファンクに生まれ変わった<If You...>、そして何と<Dreamin' Walkin'>なんて懐かしい曲が飛び出す中、実はカナザワが一番感心したのが、この『ALL IS VANITY』からの<海>だった。

角松は年末にセルフ・カヴァーのバラード・アルバムを出すことになっていて、ツアーの合間を縫いながらレコーディングに入る。しかもその内容は、現・角松バンドのメンバーたちが曲をセレクトし、そのままアレンジやプロデュースまでを一手に手掛けるそう。で、当の角松は歌うだけ。すべて自分で仕切りたいタイプの角松にしては、ずいぶんの英断だと思うが、それだけメンバーを信頼しているのだろう。また、それぞれが自分をどう料理してくれるかも、楽しみにしているはずである。

この日プレイした<海>は、その前哨戦となるもの。チョイスしたのは、kydの森俊之だ。まだ新しいアレンジではなく、原曲のジョー・サンプルとラリー・カールトンのソロ合戦をそのまま森vs今剛で再現していたが、最近の角松にはこうしたメロウな曲があまりなかったので、エラく新鮮に響いた。本人も「この曲の存在を忘れていた」とか

森俊之といえば、今の日本のポップス・シーンを代表するアレンジャー/プロデューサーのひとり。その音作りは隙間を有効に活かすスタイルで、あまり音を分厚くしない。つまり“音を足す”のではなく“音を引く”タイプ。極論すれば、これまでの角松とは正反対といえる。だからこの、地味ながらも静かにエモーションを発散する<海>に着目したに違いない。確かに遊びやすくもあり、いろいろなアレンジが考えられる曲。さすが、深く納得のセレクトである。

森さんが角松と直接関わるようになったのは『THE PAST AND THEN』からだから、まだつい最近のことだ。それでもいきなり強い存在感を示し、角松サウンドに影響を与え始めている。もしかしたら、今後は彼が徐々に角松バンドのキー・パーソンになっていくのでは?なんて予感も。

現にカナザワ、以前から周囲の人に「もうど派手なスラップとかシンセで音の壁を作るような時代じゃない」と力説していたのだ。この日のT's Gangのステージ中盤は、まさにそういう方向に踏み出してみせたかのよう。復活後の角松のバンド・ライヴで、これだけエレピとオルガンの音がシッカリ聴こえたのは、多分初めてである。『存在の証明』とか『SUMMER 4 RHYTHM』あたりにもそういう傾向はあったが、最終的には重圧な音のままだった。
でもリスナーを広げたいなら、ココは必須!というのがカナザワの持論。今のファンには賛否あるだろうが、今のままならファン拡大もない。長年親しんだ音の感触を替えるというのは、アレンジ手法を替えることより難しいが、是非今度はそこにチェンジしてほしいと思っている。まぁ、次は企画作だから、その次のフル・オリジナル・アルバム、そこが勝負の分かれ目になるかな?? もちろん、あくまでカナザワ個人の希望的観測ですが…。

あとやっぱり今さんはスゴイ。どんな曲にもジャスト・フィットするソロを持ってくる。しかもずっと強面のイメージだったのに、角松とのライヴでは、マジで楽しそう。一緒にフリをつけて踊ったり、軽いギャグをカマしたり、バックの中で一番はしゃいでた。角松とやる時の今さんを見ると、イメージ変わっちゃいます。この蜜月、しばらく続いてほしいな。
そういや、今さんの唯一のソロ・アルバム『STUDIO CAT』ですが。18日のNHK-FMでも名曲<Agatha>をかけているけれど、タイミング良く紙ジャケで再発されるようです。こりゃあ買い直し必至!

終演後は日焼けした角松に挨拶し、一部の角松フリークには有名な角松完コピ・バンド、Fakeの連中と合流。彼らは自分たちのライヴ(@目黒ブルースアレイ!)に角松本人を招待し、<Sky High>で紙飛行機投げをやらせてしまった強者たちなのだが、今度は酒の勢いでカナザワにその毒牙を向けてきた。ふん、その手には乗りませんよーだ!