518fa423.jpgかつて某レコード会社の敏腕A&R、現在は自らインディ・レーベルを主宰するH氏とランチ・ミーティング。以前会ったのは比屋定篤子の取材だったから、もう9年ぶりか…。最近、とあるAORアーティストの最新音源を巡って再会し、何とか日本リリースを目指そうということになっている。今日はそのための流れの確認。そのあとは溜池にあるクラウンのスタジオへ行き、『BAND WAGON 2008』の試聴会に臨んだ。

ご存知のように『BAND WAGON』は、はっぴいえんど解散後の鈴木茂が単身渡米し、サンフランシスコとL.A.でレコーディングしたファースト・ソロ・アルバム。75年に発表され、リトル・フィートやスライ&ファミリー・ストーン、サンタナ、タワー・オブ・
パワーらのメンバーと相見えた日本のロック史に残る名盤としてお馴染みである。

CD化されたあとも何度か再発され、紙ジャケでも出ているが、特に05年の“Perfect Edition”は本人監修のリマスタリングとライヴ映像収録による決定版のはずだった。しかし今度は、奇跡的なマルチ・テープ発見により、リミックスが可能になったのだという。ユーザーとしては「オイオイ、何枚買わせるのよ」と文句のひとつも言いたいトコロなれど、中身を聴いたら、やっぱり「もぅ一回いっとく!?」となるのは請け合い。ココまで行けば、あとは5.1chマルチくらいしかないだろう。カナザワ的にはストレンジデイズ誌のコラム用に、逸早く音源を手にしていたが、スタジオでのクリーンな音でリミックス版を味わい尽くせる、しかも監修:長門芳郎さんと茂さん自身が登場するとあっては、戴いたチャンスを無にするワケには行きませぬ。実際知り合いのライター諸氏やエディターさんなども、チラホラ来ておりました。

ちなみにミックスとマスタリングの違いについて簡単に触れておくと、レコーディングされた各トラックごとにエディットしたり、自由自在に楽器のバランスを変えることができるのがミックス。例えば古いリズム・トラックに、リレコしたヴォーカルを乗せることも可能である。そうして出来上がった音源を微調整するのがマスタリングで、ここでは周波数帯ごとに音質をイジる程度。むしろアルバム全体をトータルに捉え、音質や音量を整えるのがメインとなる。曲を順番に並べ替えるのも、このマスタリングでの仕事だ。

この日明らかになったのは(カナザワが勝手に勘違いしてただけかも?)、Perfect Edition後にマルチ・テープが発掘されたのではなく、Perfect Edition自体がマルチからのリマスターだったということ。何故あの時点でリミックスを作らなかったかといえば、それは茂さん自身がエンジニアリングの修行中で、リマスターはできてもリミックスは時期尚早と自ら判断したためらしい。その後も研鑽を重ねると同時にヴィンテージな器材集めに奔走した彼は、ここへ来て、ようやく時が来た!と思ったのだと言う。

収録曲19曲中のうち、前半はまるごと『BAND WAGON』のリミックス・ヴァージョン。基本的にアナログ盤の音の太さを忠実に再現したもので、楽器のバランスを多少調整した程度とか。そして目玉は、編集前のロング・ヴァージョン5曲と残りのアウトテイクだろう。アウトテイク集ではドラムがパターンを模索しながら叩いている様子が伝わってきたりして、完成ヴァージョンと聴き比べると、面白さ倍増。ロング・バージョンは本編フェイド・アウト後の最後の一音まで丸々収めたもので、充実したセッションの全貌が明らかとなる。とりわけ<100ワットの恋人>では、エンデ
ィングの流麗なスライド・ソロが延々と続き、まさしく圧巻。ここで2回も転調してたなんて、今まで全然知らなかったよ〜。

またスタジオで撮ったレコーディング時のスナップも大量に発見されたそうで、その一部がブックレットに載っている。いやぁ、フィートの面々も茂さんも、みんな若いわ〜 こりゃあまさしく決定版だし、買い直し必至。ちなみにカナザワ、アナログを含めると、なんと5枚目の『BAND WAGON』になる 今回のはジャケ右上に2008のスタンプがあります。

同時発売の『LAGOON 2008』も、同様に未編集ロング・ヴァージョンとアウトテイクを収録している。こちらは演奏そのものよりも、トロピカルなサウンド・プロダクションが完成に近づいていくプロセスを楽しむべき内容。

なおこの日はコンソールの前で試聴し、そのあとティン・パンの面々が使っていたというクラウンのスタジオの中に入って、茂さんの話を聞く趣向。あそこにあるマリンバは、細野さんがあの時使っていたモノ、なんて言われると、30年の歴史の重みをズシンと感じずにはいられない。