8c76145b.jpgちょうどスプーキー・トゥースの作品群が紙ジャケでリイシューされ、一部で再評価気運が高まっているゲイリー・ライト。その彼の76年から81年までのアルバム4作が、先頃Wounded Birdから一挙リイシューされた。そのうち最後のアルバムであるこの『THE RIGHT PLACE』を、レココレ誌海外盤コーナー向けにサクッとレビュー。

ゲイリー・ライトといえば、80〜90年代は忘れた頃にポツンとソロ・アルバムを出すだけで、ジョージ・ハリソンとの親交を除くとほとんど忘れられた存在だったが、それ以前、スプーキー・トゥース解散から70年代後半の勢いはかなりのものだった。76年のシングル<夢織り人(Dream Weaver)>と<Love Is Alive>は、相次いで全米2位を記録。その波に乗って、次々と斬新なサウンドを届けてくれていたのである。

その斬新なサウンドというのは、鍵盤トリオ+ドラムだけで作られるキーボード・サウンド。60年代末にシンセサイザーが誕生して急速な進化を遂げ、ある種飛び道具としてミュージシャンの間に広まったのがこの70年代半ばなのだが、その中心はいわゆるプログレ系。ポップ・ロック系のミュージシャンがそれを売りにするケースは少なかった。その中で孤軍奮闘していたのが、かのジノ・ヴァネリとゲイリー・ライト。さすがにジノほどアカデミックな使い方はしていなかったものの、元来キーボード奏者であるゲイリーは、ステージで逸早くショルダー・キーボードを使ってフロントに立ち、マイクに向かった鍵盤奏者だった。彼はレコーディングのみならずステージでもキーボード+ドラマーだけでプレイ。そこに貢献していたのが若き日のデヴィッド・フォスターやスティーヴ・ポーカロだったことは、案外知られていないようだ。

そんなゲイリーのソロ全盛期の最終章を飾ったのが、この『THE RIGHT PLACE』である。しかし81年といえば、言わずと知れたAOR隆盛の真っ只中。ゲイリーもその辺りは無視できなかったようで、メロディ自体はいつものゲイリー節ながら、サウンド面はそれまでよりずっとコンテンポラリーなスタイルにシフトしている。

これに貢献したのが、共同プロデューサーを務めたディーン・パークスだ。この時期、ジェイ・グレイドンやフォスターといったミュージシャンたちが次々とプロデュース・ワークを開始し、それなりの成果を上げ始めていたから、彼らに近しいディーンも触発された部分があったのだろう。これはラリー・カールトンも然り。しかも彼は専門のギターはもちろん、サックスやキーボードまでプレイしていて。職人肌の人だけに、この器用さには驚く人もいるんじゃないかな?

ついでにバックを見てみると、ケニー・ロギンスのリズム隊にジェイムス・ギャドソン、レニー・カストロ、スーパートランプのボブ・C・ベンバーグ、更にコーラス陣にはデヴィッド・パックにティモシー・シュミットが参加している。キーボード主体なのは前と同じだけれど、その比重は少し軽くなってゲイリー自身がダビングで済ませるようになり、その分従来のフォー・リズムによるバンド・サウンドが強化されているのだ。ま、その分斬新さは減退したが、そこはAORテイストが強まったということで、我々AORファンは前向きに解釈してしまおう。現にアリ・トムソン(ベンバーグの弟)との共作<Really Wanna Know You>は、久々の大ヒット(全米16位)を記録しているのだし。バリー・マン&シンシア・ワイルとの共作曲もバラードではなく、ユニークなシンセサイズド・ポップ・ファンクに仕上がっている。

ちなみに、かつて日本のみでCD化されていたこのアルバム。今回の再発のポイントは、5曲のボーナス・トラック。しかもそのうち3曲は、Mr.ミスターのギターだったスティーヴ・ファリスや作詞担当のジョン・ラングとの共作だったりする(リチャード・ペイジ&スティーヴ・ジョージのクレジットはナシ)。まぁ、勢い込んで聴いてみたら、ただの産業ロック・チューンだったんですけど…