tony_bennett_duet2巷で話題沸騰中の、大御所ジャズ・シンガー:トニー・ベネット最新作『DUETS II』。ロッド・スチュワートよろしく、アメリカン・スタンダードの名曲を取り上げたゴージャスな作品で、ジャンルを越えた超一流シンガーたちとトニー・がデュエットを繰り広げる。早い話、グラミー3部門獲得の06年作『DUETS』の第2集。

ところがこのアルバムが、85歳にして全米アルバム・チャートで初登場No.1という、ギネス級のスゴイ記録を樹立した。日本でも発売日にTVの朝のワイド・ショーで紹介され、瞬く間に品切れになったそう。何でも、時の人レディ・ガガとデュエットしているクリップが放映されたとかで、かなりのインパクトがあったらしい。

もちろん既報の通り、7月に急死したエイミー・ワインハウスの最後のレコーディングになったことも、大きな話題になっている。「彼女は本物のジャズを歌っていた。早くドラッグを断つべきだ、と伝えられなかったのが心残り」というトニーのコメントも伝えられた。

その他、女性陣はアレサ・フランクリン、ナタリー・コール、マライア・キャリー、シェリル・クロウ、クイーン・ラティファ、ノラ・ジョーンズ、フェイス・ヒル、キャリー・ウンダーウッド、男性陣ではウィリー・ネルソン、ジョン・メイヤー、アンドレア・ボッチェリ、マイケル・ブーブレなどが参加。さもありなん、という顔合わせから、超意外なチーム・アップまで、ひとときも飽きさせない。前作もたくさんの豪華共演が詰まっていたけれど、“旬な人”を集めた点で、今作の方がはるかに話題性が高い。オマケに日本盤では、間もなくデヴィッド・フォスターと共に来日する11歳の天才シンガー、ジャッキー・エヴァンコとの共演も。その歳の差、何と72歳。こりゃあお爺ちゃんと孫どころじゃなく、曾孫クラスですね そうした豪華ゲストとの華やかなパフォーマンスを、フィル・ラモーンが仕切るゴージャズなサウンドが支えている。いやいや、コレは本当に素晴らしいアルバムだ。

ただ、こういう洋楽ヒットがTVのワイド・ショーからしか出なくなっているという事実は、本当に嘆かわしい。でも、それがキッカケとなって真の音楽ファンが生まれたり、“本物を聴き分ける耳”を育てることに繋がるのなら、それはそれでアリだと思う。したり顔して、ゲストが上手かったんでしょ!で片付けてしまったら、もうそこからは何も生まれない。特にレディ・ガガは、ポップ・アイコンとしての彼女ではなく、本物のミュージシャンとしての姿がハッキリ現われていて、その実力のほどが窺い知れる。もちそんそれを引き出したのはトニーであり、ガガもそれにヴィヴィッドに反応する感性を持ち合わせていた、ということ。

できればこうした豪華共演は、PCの小さなスピーカーやiPodのヘッドホンで聴くではなく、事情が許す限り、豊かな音量でゆったり楽しんでほしいと思う。空気を揺らすオーケストラの響きこそが、このアルバムを贅沢に演出する。それをチマチマ聴くのは、三ツ星レストランのディナーをレトルト・パックにしてしまうようなものだ。