george_harrison今日はジョージ・ハリスンの命日。ちょうど10年前の11月29日、彼は肺癌と脳腫瘍を併発し、58歳で逝った。闘病中であるのが公表されていたため、衝撃的だったジョン・レノンの狙撃事件とは違って、静かな、如何にもジョージらしい逝き方だったと思う。

しかし今年は、スコセッシの映像ドキュメンタリー『LIVING IN THE MATERIAL WORLD』が発売されることもあって、例年になく追悼ムードが盛り上がっているよう。今年の元旦のブログで、「今年はジョージにスポットを!」と書いたが、それがホントになってしまったのだ。FM各局ではジョージ特集が組まれているようだし、ちょっと車で外出しただけで、何曲ジョージやビートルズ楽曲を耳にしたことか…。もっとも、映画館で先行限定公開されている『LIVING IN THE MATERIAL WORLD』は、このまま観に行けずに終わってしまいそうだが

そこでこの79年作。タイトルはシンプルに『GEORGE HARRISON』で、当時の彼の充実したプライヴェート・ライフを反映した、ハッピー・ムードの1枚になっている。それでも、サイレント・ビートルと呼ばれたジョージゆえ、能天気な明るさとは無縁。柔らかな木漏れ日を浴びているアートワークのイメージ通り、ふわっとソフトで穏やかなサウンドが詰まった作品だ。邦題『慈愛の輝き』も言い得て妙で、時にハマる抹香臭さもない。ジョージのソロ代表作といえば、アナログ3枚組の大作『ALL THINGS MUST PASS』にトドメを刺すけれど、73年のアルバム 『LIVING IN THE MATERIAL WORLD』には充分対抗しうる、ダーク・ホース期の後期傑作と言えるだろう。

楽曲的な面を見ても、好曲が揃っていて。ビートルズ時代の名曲と対を成す<Here Comes The Moon>を筆頭に、ジョージらしいポップ・チューン<Love Comes To Everyone>や<If You Believe>、愁いを帯びた<Not Guilty>、後のヒット作『CLOUD NINE』前哨戦のような<Blow Away>など、少々センが細いながらも印象的なメロディばかりだ。個人的には、ホンワカとメロウなフィーリングが漂う<Dark Sweet Lady>やスロウの<Your Love Is Forever>が大好き。

ジョンやポールのような天才的音楽家ではなかったジョージは、声域の狭さや繊細な歌声を逆手に取って、苦労の末に甘美なコード感を活かす手法を編み出し、<Something>や<Here Comes The Sun>、<While My Guitar Gently Weeps>といった名曲を産み落とした。スワンプへの接近も、ジョージの楽曲の魅力を最大限に引き延ばすことに貢献している。ジョージの作品にAORっぽいテイストがあるのは、彼がそのあたりに軸足を置きながら、様々なスタイルを昇華して自分のスタイルを構築していったから。それが良い形で表出したのも、このアルバムの特徴かもしれない。

参加ミュージシャンも、スティーヴ・ウィンウッド(kyd,cho)を始め、アンディ・ニューマーク(ds)、ウィリー・ウィークス(b)、ニール・ラーセン(kyd)とお馴染みばかり。そして盟友エリック・クラプトンとゲイリー・ライトが、各1曲づつにゲスト参加している。プロデュースはジョージとラス・タイトルマン。話題の多い今だからこそ、こういうジョージの静なる作品にも耳を傾けて頂きたい。