ewf_ele_universeこの7日に発売されるアース・ウインド&ファイアーのBlu-Spec/紙ジャケ・リイシューを、関係者の役得でひと足お先に。今回再発される全15作は、林剛氏とカナザワの2人で手分けして解説を書き、各コメンテイター諸氏の取材を行なった。カナザワが受け持ったのは、7作品のライナー執筆と、角松敏生、元スペクトラムの兼崎順一さんのコメント取り。林氏はジャケを書いている長岡秀星やノーナ・リーヴスの西寺郷太などに取材している。この『ELECTRIC UNIVERSE』は、解説:カナザワ、コメントは松尾KC潔さん。


ここで数なる中からコレを選んだ理由は、今回の再発の目的のひとつに、不評を託つ『FACES』や『創世記(POWERLIGHT)』、そして本作あたりに是非正当な評価を与えたい、という想いがあるからだ。自分と林氏がブレーンに選ばれたのも、担当A&R氏にそうした狙いがあったから。ダンス・クラシック的な人気はもう充分に確立しているし、これまで主流だった『暗黒への挑戦(THAT'S THE WAY OF THE WORLD)』や『魂(SPIRIT)』礼賛はもういいでしょう…、というワケである。

実際EW&Fへの評価というのは、売れる前からEW&Fを知っている世代とブレイクしてからのファン、下降期になってEW&Fを知ったという30~40歳代のファンで、それぞれに評価や見方が違う。更に熱血ソウル〜ファンク・ファン、ディスコ・ファン、ポップス・ファン、クロスオーヴァー的な斬り口やミュージシャン目線で聴くファンと、実に様々なスタンスのファンを抱えている。それなのに、今まではウルサ方のソウル〜ファンク・ファンばかりが彼らを語ってきた感覚。93年のレココレ誌の特集が象徴的だが、それから数えてもカレコレ20年近く経つのだから、いい加減、違った斬り口が必要なのではないか。そういう認識が、我々の中に共通していた。

そうした意味で、「でもやっぱり『I AM』だろ、君たち!と言いたいですね」と言い放った角松のコメントは、まさに我(ら)が意を得たり!  KCさんも『ELECTRIC UNIVERSE』 に対し、“今こそポジティヴな評価を与えたいアルバム”と語っている。もちろんそうした論調は、郷太氏も同じ。誰もが70年代のEW&Fの素晴らしさを知ってはいるが、その後のEW&Fだって、世間で言われるほど悪かぁないよ!と主張したいのだ。

そりゃあ確かに、彼らが看板にしていたフェニックス・ホーンズがリストラされたのはショックだった。フィリップ・ベイリーがこのアルバムを嫌悪している、という話も耳に入っている。でも『創世記』から『ELECTRIC UNIVERSE』に掛けての彼は、もうソロ・アルバムに意識が向かっていて、曲作りにもほとんど参加していない。言ってしまえば、モーリスがメンバー以外の面々と創り上げた作品だから、何の思い入れもなく愛情も沸いてこないのだろう。

それでも1枚のアルバムとしては佳曲が多くて… モータウン・ビートをモデファイした<Moonwalk>、ポップな<Sweet Sassy Lady>、EW&Fらしいスケール感の<Spirit Of A New World>などが光っているし、定番バラードの<Could It Be Right>なんて、他のアルバムに入っていたら絶対人気が出ただろう。シングル<Magnetic>などでモーリスの右腕となったのは、UKのシンセ・ポップ・ユニット:Qフィールのマーティン・ペイジ&ブライアン・フェアウェザー。彼らとモーリスはその後もニール・ダイアモンドやバーブラ・ストライサンドで手を組み、モーリスのソロ作にも貢献する。更にマーティン・ペイジは、スターシップ<We Built The City>やハート<These Dreams>といった全米No.1ヒットを産み出すのだ。そんな彼らに逸早く目を付けたモーリス。結果はどうあれ、その審美眼は決して曇っちゃいなかったのである。

…そしてかくいう自分も、当時は嫌悪していた『HERITAGE』を再評価中 もちろん、Sax& Brass Magazineの特集も併せて。