atsuko_niinaいやぁ〜、斜陽の音楽業界といえども、悪いコトばかりではないな。こんな劇レア珍盤が、あっさりCDになってしまうのだから…。これは、84年にハワイ録音のリゾート路線でビクターからデビューした二名敦子が、実はその前年にテイチクから出していたという、封印された幻のデビュー作なのだ。

04年初頭に敢行したディスク・ガイド『Light Mellow 和モノ669』に、隠しネタ的に掲載したところ、アッという真に高値の華となったシロモノ。 実は7年くらい前に1曲コンピに使おうとしたが、権利上の難しさから、レコード会社に「アンタッチャブル!」と言われてしまったアイテムなのだ。でも今回は何とかスルーできたようで…。とはいえ、紙ジャケットではなくジュエル・ケースでの発売で、中の解説も当時のまま。うーむ、こりゃあライセンス・コスト高そうね…

ここでの二名敦子は、ジャケ写の通り、黒のミニ・ドレスに身を包んだセクシー・キャラ。本当に猫撫で声で、溜息まじりに歌っている曲もあるほどだ。しかも歌っている曲が、ボサノヴァやアメリカン・スタンダードといった有名曲の日本語カヴァー。とりわけアントニオ・カルロス・ジョビンが4曲もチョイスされ、それぞれにシティ・ソウル風<ワン・ノート・サンバ>、高速サンバ<イパネマの娘>、アーバン・ファンク<ウェイブ>、そして喘ぎ声まで飛び出す怪し気なメロウ・ファンク<おいしい水>となる。

他にも、<キサス・キサス・キサス>や<ミスター・ボージャングルス>、<明日に架ける橋>、<ベサメ・ムーチョ>に<幸福せの黄色いリボン>と、有名曲がスラリ。でもひとつ間違えると、ちょっと色モノになりそうな雰囲気が漂う。でも当時はともかく、今なら完全にフロア・ユースにジャスト・フィットする、奇跡のメロウ・グルーヴが詰まっているのだ。和泉宏隆アレンジ/当時のThe Squareがバックなんて楽曲もアリで、歌モノ・フュージョンとしてもユニーク。リゾート路線の彼女も良かったけれど、ここにいる妖艶でアブナイ彼女には、もっとソソられてしまうな

ちなみに彼女、本作以前にも早川英梨という名前で、歌謡ポップス寄りの路線でアルバムを出している。グループでもないのに、3度もデビューし直したという稀有なシンガーでもあるのだ。