david_spinozza突然舞い込んだ訃報で遅くなったが、ココ2日ほどは、次号レコードコレクターズ誌のA&M特集の記事を書いていた。A&Mを特徴づけるのは、いま着々と紙ジャケ/高音質リイシューが続いている60'sのソフト・ロック〜王道ポップス路線なのだろうけど、やっぱりカナザワ的に興味があるのは、70年代に入ってロックやクロスオーヴァーへと視野を拡げていった時代。原稿発注を受けたのも、そうしたフュージョンがもっとも進歩的だった時代の作品群だ。

その中から、ポール・マッカートニー『ラム』特集でも触れていたニューヨークの職人ギタリスト、デヴィッド・スピノザの初ソロ・アルバム『SPINOZZA』(78年)をチョイス。

個人的には、N.Y.スタジオ・シーンきっての白人ギタリスト5人衆のひとりと目している敏腕で(他の4人はジョン・トロペイ、ジェフ・ミロノフ、スティーヴ・カーン、ヒュー・マクラッケン)。マイク・マイニエリ率いる、あの伝説のホワイト・エレファント構成員でもあり、キャリアは長い。このアルバムのプロデュースもマイニエリで、マイケル・ブレッカー(sax)、ウォーレン・バーンハート(kyd)、ロブ・マウンジー(kyd)、アンソニー・ジャクソン(b)、スティーヴ・ジョーダン(ds)、リック・マロッタ(ds)らが参加している。

でもって本作の面白さは、ギタリスト:スピノザをアピールするだけでなく、作編曲の才や以外にもヴォーカルまで披露し、トータル・ミュージシャンとしてのスピノザを表現していること。だから、アンソニー=ジョーダンのリズム隊をバックに激しくギターを掻き鳴らす曲があったかと思えば、自身がフル・オーケストラをアレンジする小曲があったり、<Country Bumpkin'>なんて曲では、タイトル通りにカントリー・フレイヴァーをまぶしつつ、スタッフを灰汁抜きしたようなサウンドを聴かせてくれる。ジェイムス・テイラーやガーランド・ジェフリーズ等などのプロデューサーとしても活躍して行く人だから、指向性は幅広いのだ。

ちなみにレオン・ラッセル<Superstar>のカヴァーでコーラスをとるのは、まだ無名だったルーサー・ヴァンドロス。アンソニー=ジョーダンのリズム隊は、スティーヴ・カーンのグループ:EYEWITNESSのメンバーとなる。そうした意味では、フュージョン名盤である以上に、現場のミュージシャン内で影響力を発揮した作品だったのかも。