tom_snow_demoある筋から噂に聞いていたトム・スノウのデモ集を、ひと足お先に。しかも全編ヴォーカルは、知る人ぞ知る名シンガー:ウォーレン・ウィービー。封を開けてすぐ飛びつくように聴き、ここ数日はもう1日1回以上のノリで。

トム・スノウは、米国が誇る当代最高のポップ系ソングライターのひとり。最近はあまり表立った活動を行っていないようだが、70年代後半から80年代にかけての頃は、まるで当たり前のように彼の作品がヒット・チャートに常駐していた。全米No.1ヒットのデニース・ウィリアムス<Let's Hear It For The Boy>やリンダ・ロンシュタット&アーロン・ネヴィル<Don't Know Much>、トップ10ヒットになったポインター・シスターズ<He's So Shy>、メリサ・マンチェスター<You Should Hear How She Talks About You>、シェール&ピーター・セテラ<After All>などを筆頭に、トムの作品はまさしく星の数ほど。リーダー・アルバムも3枚あって、82年にAristaから出した『HUNGRY NIGHTS』は、AOR名盤として人気が高く、再CD化が待たれている。

そのトム・スノウよるデモ・トラック集が、めでたく陽の目を見ることになったワケだ。収録されたのは、90年代初頭に吹き込んでいたと思われる全12曲。その中には、マイケル・マクドナルド&チャカ・カーンがサントラ盤『BEVERLY HILLS 90210』で歌った<Time To Be Lovers>や、レイ・チャールズが取り上げた<Love Has A Mind Of Its Own>、アーロン・ネヴィルやハワード・ヒュウェットが録音している<Ronnie-O>のデモ・ヴァージョンなどが含まれている。この<Ronnie-O>のデモだけは、98年に出た『THE SONGS OF TOM SNOW』なる2枚組プロモ盤に入っていたが、その他はもちろん未発表。さすがに かつての弾けるようなポップ・ソングは見当たらないものの、ゆったりしたスロウ・ナンバーを中心に、あったかでハートフルなメロディの宝庫だ。作曲クレジットを見ると、意外にもキャロル・キングの最初の旦那ジェリー・ゴーフィンとの共作が5曲も。しばらくの間、トムは彼をパートナーにして作詞を任せていたようである。

こうした楽曲の魅力を惹き立てているのが、故ウォーレン・ウィービーのマイルドな歌声。デヴィッド・フォスターの秘蔵っ子としてL.A.界隈のセッション・シーンでメキメキ評価を上げ始め、まさにこれから、という時期(98年10月)に亡くなってしまったヴェルベット・ヴォイスの逸材だ。彼の仕事で最も有名なのが、フォスターの『RIVER OF LOVE』への起用で、自身のアルバムはまだなかった。本作では、そのウォーレンが全曲リード・ヴォーカルを担当。素晴らしいヴォーカルを披露している。これだけで、もう充分満たされた心持ちになれるはずだ。デュエットも2曲用意され、共に無名の女性デモ・シンガーが歌っているが、これもまた本作の大きな魅力になっている。

デモ集ゆえに、基本はトムのキーボードと打ち込みで構築され、サウンド面での過剰な期待は禁物。それでもスロウ・チューンが多いのであまり気にならないし、ジェイムス・ハラー(g)とフィル・ケンジー(sax)という実力派がサポートしているので宅録的チープさもない。むしろ、作りがシンプルなだけ、リッチなメロディと豊潤なヴォーカルがストレートに伝わってくる。まだまだ寒いこの季節に、ジャスト・フィットするソング・コレクションだ。

リリース元はスペインのContante & Sonante。実はココ、かのデヴィッド・フォスター楽曲集『FLY AWAY』を制作したレーベルである。カナザワがその日本盤ライセンスを仲介した関係で、逸早くサンプル盤を送ってくれたのだ。プレスは1000枚限定で、Contante & Sonanteのサイトを中心とした販売。この2月末には発売されるようなので、是非お買い逃し泣きよう。

Contante & Sonante日本語サイト