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あぁ、無情…。肝臓癌による緊急移植手術以来、体調面の話題ばかりが先行してきたジャック・ブルース。伝説のクリーム再編でさえ、彼の体調の心配から実現を急いだ、なんて話もあった。だが最近は調子が良かったらしく、今年になって11年振りとなる新録作『SILVER RAILS』を発表。しかしそれも束の間、たった数ヶ月で鬼籍に入ってしまうとは… 亡くなったのは25日、 英東部サフォーク州にある自宅で。享年 71歳。やはり肝臓疾患が原因だったとされている。

でもこの新作、すこぶる内容が良い。別に “最後の力を振り絞って…”という悲壮感はなく、普通にエネルギッシュ。そりゃまあ、かつてのような鬼気迫るベース・プレイは聴けませんさ。でもね、当然のことながら、セッション・マンのようなありきたりのプレイではないし、枯れた中にもユニークなアイディアが潜んでいる。そして言うまでもなく、ベースのミックスはデカイ。

ただそれよりも、今回は曲を書いて歌うことが主眼だった気が…。しかも全10曲中7曲が、長年の作曲パートナー:ピーター・ブラウンとの共作で、うち2曲はソロ時代の楽曲の再演だ。ライナーを読むと、“前は複雑にやり過ぎたので、元々のアイディアに戻した”という発言があったという。これが実は今作の根幹部分に関わっていると思うのだ。そう、ソロになってからのジャック作品は、確かに難解な方向に走りがちだった。ところが今回は、ある意味原点回帰というか、“クリームのジャック・ブルース” を期待する向きに馴染みやすい。あくまで、ソングライター/シンガーの面から、だが。

旧友クラプトンを意識したワケでもなかろうが、実際、ギタリストのキャスティングには興味深いものがある。ロキシー・ミュージックのフィル・マンザネラ、インコグニート/ブルーイ周辺での活動で知られるトニー・レイミー、元スコーピオンズのウリ・ジョン・ロート、かつて一緒にパワー・トリオを組んでいたロビン・トロワー(元プロコル・ハルム)、そしてホワイトスネイクで名を上げたバーニー・マーズデン。特にマーズデンは焼き直しの2曲でフィーチャーされており、まさに往年のクラプトンっぽいブルージーなギターを聴かせてくれる。ゲイリー・ムーアが生きていれば、きっと彼も呼ばれていたに違いない。

他にもジョン・メデスキがオルガンを弾いていたり、カルロス・サンタナの奥様シンディ・ブラックマンがドラムを叩くなど、興味深い名前がアチコチに。シンガー:ジャック・ブルース再評価のキッカケを作ったキップ・ハンラハンとも1曲共作している。有終の美、とは言いたくないが、このアルバムを創ることは、ジャックにとって集大成だったに違いない。個人的には、この機にミック・テイラー(g)やカーラ・ブレイ(kyd)、サイモン・フィリップス(ds)らが去来したジャック・ブルース・バンドも再評価したいところだ。

偉大なるベーシスト/シンガー・ソングライターに、Rest in Peace…