nathan east
世界多忙なベース・プレイヤーであるネイザン・東・イーストが、遅かりし初リーダー作を発表したのが、今年3月のこと。唐突なリリースだったのでチョッと驚いたが、内容は彼らしさと意外性が同居した予想以上の充実ぶりで、今の彼が作り得るベスト・ワークスだったと思う。そのネイザンが、今度は初めてのソロ・ツアー@Billboard Live Tokyoを行なった。今日はその3daysの初日である。

ソロ・アルバムが出た時に、あるプロのベース奏者とネイザンについて話す機会があったが、彼曰く「ネイザンってメチャ巧いんですけど、ベース・プレイヤーの目で見ると、あまり面白い人じゃないんですよ」

あー、その気持ち、分かる分かる! そのココロは、どんな場にもすぐ適応できる恐るべきテクニックと順応性を持った優等生的プレイヤー、ということだ。でもそれを実践するのは、一芸に秀でた個性派プレイヤーを目指すより遥かに難しい。

ネイザンも頭角を現して来た頃は、L.A.を地盤とするジャズ・フュージョン系のセッション・ミュージシャンという印象で、AORやブラック・コンテンポラリーへの参加は当然と思われた。でもエリック・クラプトンとワールド・ツアーに出た時には、「へぇ、レコーディングならまだしも、ツアーにも付き合っちゃうんだ!」とビックリ。ま、その時はグレッグ・フィリンゲインズ(kyd)やスティーヴ・フェローニ(ds)が一緒だったから、まだ納得できたが、未だにクラプトンと演っているのは驚かされる。マーカス・ミラーあたりと違って、ただフレキシブルなだけでなく、何でもポジティヴに楽しんでしまえるキャラクターなんだな。

そういう持ち味が存分に発揮されたリーダー作だったので、ライヴでそれをどう再現するかが楽しみだった。サポートを務めたのは、現在トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズに在籍する盟友フェローニ、アルバムでも敏腕振りを発揮していたマイケル・トンプソン(g)の他、日本在住のケイリブ・ジェイムス(kyd)、住友紀人(sax,EWI,kyd)、そしてジャック・リー(g)という摩訶不思議な陣容。6弦でメロディを弾くことが多くなるベースのバックアップは、実弟ジェイムス・イースト(b)が務めた。

思わず “リハは日本で?” と訊きたくなるこの組み合わせは、さすがネイザンの顔の広さの賜物。だが、どうしてこういうラインナップになったのかは謎である。スケジュールの問題? アルバムで凄まじい力唱を聴かせたマイケル・マクドナルドを連れてくるのは無理としても、どうせならグレッグ・フィリンゲインズやレイ・パーカーJr.、チャック・ローブといったレコーディング・メンバーを多めに呼んで欲しかった。もちろん結果的には、ケイリブやジャック、住友氏の熱演振りも大きな収穫だったが…。

ステージは、アルバム冒頭に入っていたネイザン作のフォープレイ・ナンバー<101 Eastbound>で、落ち着いたスタート。そして彼の甘いヴォーカルが聴けるブラインド・フェイス<Can't Find My Way Home>のカヴァーへ続く。ネイザンは専らリード・ベースといった趣きでメロディやオブリを弾き、時々マイクに向かった。もちろん十八番であるベースとスキャットのユニゾンも披露。それでいてメンバーのソロ廻しをふんだんに取り入れ、彼らしいバランス感覚を見せる。言い換えれば、ベーシストというより、音全体をトータルに聴かせるサウンド・クリエイターとしてのライヴ・パフォーマンス。まずベースありきなのは当然としても、たまたま看板アーティストがベース・プレイヤーだった、というスタンスだ。もっと超絶ベースが聴きたかった、という声もあるだろうが、そういう方には“アンタ、ソロ・アルバムの何処を聴いてきたのよ?” と問いたいし、ネイザンの持ち味を理解してないことになる。

終盤はゲストのJAY'EDを迎え入れ、ファレルの<Happy>を裏ノリの変則アレンジで。続いてネイザンがベースを弾いたダフト・パンク<Get Lucky>をカマし、フロアは総立ち。ハッキリ言っちゃえば単なるファン・サーヴィスに過ぎないが、これが自分を「ヒガシで〜す」なんて言っちゃうネイザンのキャラなのだ。そのクセ、ラストはベース一本で<America The Beautiful>をシットリと。

基本的にネイザンは、誰かのバックでこそ真価を発揮するタイプで、自らはあまりフロントに立つべきじゃない。でもそれを自分で承知しているからこそ、ずーっとリーダー作を作らなかった。そしてようやく、40年超というプロ活動の集大成に相応しいショウをこのタイミングで。小耳に挟んだところでは、ゲストは日替わりという噂だから、日本盤ボーナス曲を書き下ろした小田和正もどこかで出るのかな??

 【11.10. 2nd Show セットリスト】
1. 101 Eastbound
2. Can't Find My Way Home
3. Sir Duke
4. Letter From Home
5. Cantaloupe Island
6. Overjoyed
7. April
8. Happy
9. Get Lucky
-- Encour --
10. Daft Funk
11. America The Beautiful