stevie_nicks
頭の数曲を聴いただけで、ピンときた。和むというか、落ち着くというか…。何年振りかに引っ張り出したシャツが、ピッタリ身の丈にフィットしたような快感。11年の『IN YOUR DREAMS』から3年ぶりに、スティーヴィー・ニックスのニュー・アルバムが届いた。

前作にもフリートウッド・マック在籍中の76年頃に書いた曲や、リンジー・バッキンガムの参加でマック時代を髣髴させるナンバーがあってファンを喜ばせたが、今回もまさにそう。現に、69年〜87年までの間に書いた未発表曲を集めてレコーディングした作品で、比較的新しいのは90年代に書いた2曲だけだ。プロデュースも、前作を手掛けたデイヴ・スチュワート(ユーリズミックス)と、1stからの長い付き合いであるギタリストのワディ・ワクテル(+スティーヴィー)。前作が好評だったので、その路線を更に進めてアルバム1枚に引き伸ばした、そんな印象である。

マックのツアーに明け暮れ、プライヴェートもボロボロだったと伝えられるあの時代。それほど多作とは思えないスティーヴィーが、これほどたくさんの曲のストックを持っていたとは驚くばかり。しかも前作以前の沈滞したソロ活動のムードを吹っ飛ばす力を持った曲ばかりだ。やっぱりミュージシャンは、悲しいかな、感性の豊かな時期に己に負荷をかけて生み出した曲の方が優れているものだな。そしてそれを輝かせる術は、経験を積みスキルを身につけてからの方が良い。そう考えると、コレはひとつの理想型かも。

制作は約3ヶ月と極めて短期間。何でも、ジョン・マクヴィー(b)の入院でマックのツアーが延期になり、そのポッカリ空いたスケジュールで作ってしまったそうだ。それを可能にしたのはナッシュヴィルの面々。スティーヴィーはそこに3週間滞在し、15日で17曲レコーディングしたという。スティーヴィー一行を迎えたのは、マイケル・ローズ(b)、チャド・クロムウェル(ds)、ダン・ダグモア(g)ら。更に彼女のアルバムでは常連であるマイク・キャンベル(g)やベンモント・テンチ(kyd)らハートブレイカーズ・ファミリー、元エルトン・ジョン・バンドのデイヴィー・ジョンストン(g)なども。<Blue Water>という曲では、レディ・アンテベラムの3人がコーラスで参加している。

…とまぁ、勢いで作ってしまった作品だが、あまりややこしく考えずに済んだのが功を奏したとも言えそうだ。マックやソロ初期に立ち返れたのも、時を隔てて素直に向き合えたからこそ。若い時から容姿に似合わぬダミ声だったから、ヴォーカルはまったく変わっていない。やっぱ魔女だわ