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朝一番で飛び込んできたジョー・コッカーの訃報。肺ガンを患い、米コロラド州の自宅で息を引き取った。享年70歳。麻薬禍だのアル中だのと、何度も死の淵に立っては生還してきた人だけに、ショックというより「とうとう、その時が来てしまったか…」という静かな気持ちだが、好きなシンガーの一人だっただけに虚脱感を覚えている。と同時に、ニュースやらSNSやらでジョーの死を悼む書き込みを見て、余計に空しさを感じている自分だ。

もちろんみんな、ジョーのソウルフルな歌、酒焼けしたようなシワガレ声に、少なからず心動かされたことがあるのだろう。ウッドストック、マッド・ドッグス&イングリッシュメン、<With A Little Help My Friends>に<You Are So Beautiful>、そして82年に全米No.1になったジェニファー・ウォーンズとのサントラ曲<Up Where We belong(愛と青春の旅立ち)>…。確かにどれも素晴らしい。

一般的にソウルフルなロック・シンガーとして語られる人だが、スタッフやクルセイダーズのようなソウル・ジャズ(敢えてフュージョンとは呼びたくない!)との共演も多く、彼ならではの深い味わいを醸し出していた。とりわけ、クルセイダーズ『STANDING TALL』(81年)に参加した2曲のうちの1曲<明日への道標 (I'm So Glad I'm Standing Here Today)>は、作者のジョー・サンプル、そしてこのジョー、それぞれの苦難の人生を歌い込んだようなバラードで、実に感動的だった。その2人のジョーが、ホンの3ヶ月ほどの間に相次いで逝ってしまったことも、何やら運命的なモノを感じてしまう。

しかしながら、それより何より、ジョーの最近の充実ぶりを挙げて、その死を惜しむ声がまったく見当たらないのが寂しい。引退したのでも、場末に追いやられたワケでもない…。そりゃあ80年代後半以降は方向性を見失い、近年も商業的には恵まれていなかった。それでもジョーは最近までメジャー・レーベル契約下でCDを作り、ライヴ活動を続けて現役を貫いていたのだ。そしてココ10年は、04年作『HEART & SOUL』、07年作『HYMN FOR MY SOUL』、10年作『HARD KNOCKING』、12年作『FIRE IT UP』と力の籠った快作を連発。ジェフ・ベックやスティーヴ・ルカサー、マイケル・ランドゥのような著名どころからジェイムス・ギャドソン(ds)、ベンモント・テンチ(kyd)、マイク・フィニガン(kyd)といったイブシ銀の職人プレイヤーたちとのコラボレイトで、第2の黄金期を迎えていたのである。そんなジョーに魅せられたカナザワも、とあるヴェニューのブッキング担当に “ジョー・コッカー呼べない?” とアプローチしたりしていた。しかし、それももう叶わぬ夢に…。

一般の音楽ファンが、ウッドストックや<愛と青春の旅立ち>しか知らないのは、ある意味 仕方のないことだと思う。大昔のコトとはいえ、それでポップス史に名を刻んだのだ。でも真のジョー・コッカー・ファンなら、最近の彼こそシッカリと評価してほしいと思う。まさに、“生涯いちシンガー” と呼ぶに相応しい人だった。 R.I.P…