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天才? 奇才? はたまた異才? 思わずそんなセリフを持ち出してしまう異能のシンガー:大野方栄(まさえ)のデビュー・アルバム『MASAE A LA MODE』(83年)が、約30年の時を経て初CD化された。オリジナル・リリースはALFAで、今回の発売元は通販専門レーベル:Bridge。同時に最新作『PANDORA』も届けられ、こちらは一般流通もある。

彼女が特別に映るのは、ユニークな超絶ロリコン・ヴォイスで、“なんちゃってジャズ” を歌うから。ただし、“なんちゃって” と言っても正調を外しているという意味で、歌や音楽性はホンモノ。ジャズ、フュージョン、ブラジル音楽、そしてクラシックの楽曲に乗って、自由奔放なヴォーカリーズが勝手気ままに駆け巡る。そのブッ飛び具合は、かの矢野顕子にも匹敵するほど。歌声は造っているのではなく、ほとんど地声だそうだ。

…と同時に、有名曲に瞬時に日本語詞を乗せてしまう、その感性の鋭さにも驚かされる。『MASAE A LA MODE』のハイライトとも言えるカシオペアのカヴァー<Take Me>は、ALFAのオフィスから間違えて持って返ったテープにたまたまこの曲が入っていて、そのメロディの良さに感銘を受け、その一晩で歌詞を乗せてしまったそうだ。

そんな縁があってか、レーベルメイトであるカシオペアがバックを付けることに…。彼らがグループごとまとまってシンガーをサポートするのは極めて珍しく、もしかしたらコレがワン&オンリーかもしれない。<朝のスケッチ>も、彼らの当時の最新作『PHOTOGRAPHS』収録曲に詞を付けたものだ。また<さよならの風景>は、シャカタク<Invitation>が元歌。<個人授業>は、アントニオ・カルロス・ジョビン作の名ボサノヴァ<Desafinado>である。

他にもハイ・ファイ・セットやサーカスに楽曲提供している滝沢洋一や、天才肌の作編曲家として名高いピコこと樋口康夫の書き下ろしなどもあって、初めて聴く人は度肝を抜かれること請け合い。アレンジは佐藤博、ヴォーカル・アレンジ/プロデュースは、ユーミンとの仕事で知られる有賀恒夫だ。サヴァンナ・バンドやマンハッタン・トランスファーからの影響が随所に見え隠れするが、とにかく方栄自身の個性が飛び抜けているので、あまり気にならない。

25歳のデビューながら、この時点で歌ったCMソングは既に300曲超。現在は800曲を越えていると言うからオドロキだ。アマチュア時代に組んでいたグループで、方栄の後釜に付いたのがラジだったというエピソードもある。

このアルバムでデビューした直後に結婚し、家庭に入ってしまったため(顔が出ないCM仕事のみ継続)、“幻の名シンガー”と呼ばれるようになるが、しばしのブランクの後、2012年に復帰。29年ぶりの新作『うるとら』と『FIRST CLASS』を2枚同時リリースした。そこからはハイペースでアルバム制作を続け、最新作『PANDORA』が復帰後5作目。聴けば多少はレンジが狭くなった感があるが、そのユニークなヴォーカルは以前のままだ。音楽的には、造詣の深いブラジル・サウンドに傾倒した内容で、『MASAE A LA MODE』を知っていれば、スムーズに入っていける。<Take Me>は、1月に発売されるLight Mellow 和モノのコンピ・シリーズ ALFA編『Light Mellow TWILIGHT』にも収録予定。

そういえば、今日はクリスマス・イヴでしたね…

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