ole_cotton2015
1/30からの3日間、オーレ・ブールドの来日公演@丸の内Cotton Clubを堪能した。31日の1st Showは、自分と斎藤誠さんとのトーク・イベント@渋谷タワーレコード(ご来場戴いた方、ありがとうございました)があったため観られなかったが、それ以外の5setはすべて参戦。前回ツアー以上に中身の濃いステージに酔いしれ、夢見心地の3daysだった。

オーレ以下、Frode Mangen (key)、Markus Lillehaug Johnsen (g)、Lars-Erik Dahle (b)、Ruben Dalen (ds) という来日メンバーは前回とまったく同じ。オーレはずーっとバック・バンドを固定化していて、新作『STEPPING UP』発表後の北欧ツアーも、この面々にホーン・セクションを加えたラインナップで臨んでいる。それだけ信頼できるミュージシャンが揃っているのだろうし、そもそもオーレのハイ・レヴェルな要求に応えられるスキルフルなミュージシャンは数が限られている、というわけだ。日本ではまだまだ新人扱いだけれど、ノルウェーやスウェーデンでブールド・ファミリーといえば、音楽ファンなら誰でも知っているくらい高い知名度があるそうだ。

そんなメンバーを揃えているのに、演奏は前回よりも更に緻密になって、完成度が上がっている。今ドキの生バンドで、打ち込みをまったく使わずにココまでシッカリCDを再現してくるケースは本当に稀だろう。かのダーディ・ループスだって、ライヴでは同期を駆使しまくっていたのだから…。もちろん物理的には音数が減っているが、それを微塵も感じさせない。日本ではホーン・セクション不在というのに、その穴さえも感じさせなかった。特に今回ビックリしたのは、ヴォーカル・ハーモニーの充実ぶり。確か前回ツアーではベースのLas-Erikくらいしかコーラスを付けてなかったと記憶するが、今度はドラマー以外全員がマイクに向かい、巧みにオーレのヴォーカルをサポートしていた。

もちろんオーレの歌も完璧だ。初めて観たときからそのピッチの正確さには舌を巻いていたけれど、3日間観ても、彼の歌がシャープしたりフラットする場面はなかった。ミュージシャンシップも素晴らしく、ギタリストとして悪戯に前へ出るコトはしない。長めのアドリブ・ソロを取った曲もあったが、基本的にリードはもうひとりのギタリスト:Markus Lillehaug Johnsenに任せているのだ。2人のギターのユニゾンやハモリもパーフェクト。kyd:Frode Mangenのフィーチャー度も高く、ヴィンテージのMini Moogで70~80'sっぽいトーンのソロを披露していた。Lars-Erikのベース・ソロが聴けたのは、メロウな<Driving>で。ドラムのRuben Dalen はソロ・パートこそなかったが、シンプルなキットの割りには腹にドスンと来る重さがあって、終始シュアなプレイでグルーヴを鼓舞していた。このリズム隊、派手さこそないものの、腰の入ったプレイでメチャクチャ良い仕事をしていたな。

今回はスティーリー・ダン x ペイジスといったアーバン色の強い『STEPPING UP』をフィーチャーしたツアーで、セットリストもメロウなミディアム・チューンが中心。だからライヴ自体の盛り上がりは、前回ほどではない。でも中身はかなり濃ゆいから、その分ジワジワッと昂揚感が高ぶってきて、最後にドカンというパターンになる。オーレが予め用意してきたセット・リストは以下の通りだが、固定していたのは10曲目<Driving>まで。その後は曲の差し換えがあったり、演奏順が変わったりしていた。本来アンコール用に持って来たと思われる<High Time>は、時間の制約から一度もプレイされず、ほとんどのショウで<O.C.O.E.>が本編ラスト、<Rock Steady>がアンコールを飾ることになった。

1. Think Twice
2. Maybe
3. Uptown Citizen
4. Shakin The Ground
5. Broken People
6. Stepping Up
7. Keep This World Alive
8. All Because Of You
9. King Of The Road
10. Driving
11. On And On
12. O.C.O.E.(ペイジス・カヴァー)
13. Keep Movin
14. Rock Steady
15. High Time

ステージ終盤について書いておくと、<Keep Movin>を演ったのは、確か初日2ndのみ。その日の終演後のmeet & Greetのあと、オーレに「もう1曲ペイジスを演ると、日本のファンは喜ぶと思うよ」と提案したら、2日目2ndでは、<O.C.O.E.>のあとに『FUTURE STREET』から<Keep On Movin'>を演ってくれてビックリ(ただし<On And On>はカット)。ヴェニューはこのショウから、ラストで総立ちになり始めた。

また最終日2ndは、この日だけ12曲目に<She's Like No Other>をプレイ。母親のために書いたというだけあって、オーレ自身、思い入れの深い曲なのだろう。そして他のショウ同様<O.C.O.E.>で一旦幕を閉じた。しかしアンコールでは、前日プレイしたペイジス<Keep On Movin'>を再演。大いに盛り上がる。更に最終日で、休日タイムテーブルでスタートが早かったことが重なり、まさかのダブル・アンコールとして<Rock Steady>まで聴くことができた。オーレもメンバーも、“日本が大好き。Cotton Clubは本当に演りやすいベスト・ヴェニューだ” と繰り返していたが、これは社交辞令などではなく、彼らの本心だと思う。

3日間を通じて、AORファンはもちろん、多くのシンガー/ミュージシャンたちもオーレを観に集まってきた。当然ながら顔見知りも多く、アチコチから「やっぱり来てましたねェ!」なんて声を掛けて戴いた。しかも皆が皆、オーレをすごく高く評価していて、彼の “ミュージシャンズ・ミュージシャン” ぶりを改めて実感。多分こんなアーティストは、AORじゃジノ・ヴァネリ以来だろう。加えて、オーディエンスの年齢層の広さにも清々しい思いを抱いた。往年のAORファンだけでなく、20代後半〜30代と思しき若いファンも数多く集まっていたのである。おそらく、当初オーレがインコグニートと比較されたことが大きいのだろうが、そうしてライヴにも足を運ぶくらいだから、その後も彼の音に魅せられているワケだ。こうして音楽的な深さとキャパシティの広さを両立させているところに、オーレの真の素晴らしさがある。

前回同様、東京だけのジャパン・ツアーで、日本を満喫する時間余裕はなかったよう。それでも最終日の昼間は浅草へ出向き、浅草寺〜仲見世を観て回ったそうだ。できることなら次はホーン・セクションも一緒に来て、東名阪ツアーでも行ないつつ、ゆっくり観光も楽しませてあげたいなぁ〜。