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これは深い。往年の名曲揃いなので軽く聴き流すだけでも楽しめるが、ジックリと音に身を沈めていくほどに荘厳なストリングスに包み込まれ、ジワジワ〜ッと静かに心を動かされる。微に入り細に入り、どこまでも的確で懇切丁寧。大きな冒険こそないが、スタンダード集によくある甘美なノスタルジック・テイストも薄く、何故か胸にザワザワ感を呼び起こす。美しくも哀しい、孤独感を募らせるような作品だ。

ダイアナ・クラールにとっては、約2年ぶりというニュー・アルバム。プロデュースは御大デヴィッド・フォスター。彼は以前からダイアナと一緒に仕事をしたがっていたそうだが、それがようやく実現した。おそらくフォスターは、“ダイアナとは、こんなアルバムを作りたい” という明確なヴィジョンがあったのだろう。重要なのは、ジャズかポップスか、ではなく、最高の唄を歌うこと。そのためピアノ弾きのダイアナは少々抑え込まれたが、収められた珠玉のヴォーカル・チューンの数々を聴けば、そんなのはごく些細な出来事と思えてしまう。

取り上げた曲は以下の通り。オリジナルが誰か、なんて書く必要がないほど有名な曲ばかりだ。

1. California Dreamin'
2. Desperado
3. Superstar
4. Alone Again (Naturally) feat. Michael Buble
5. Wallflower
6. If I Take You Home Tonight
7. I Can't Tell You Why
8. Sorry Seems To Be The Hardest Word
9. Operator (That'S Not The Way It Feels)
10. I'm Not In Love
11. Feels Like Home feat. Bryan Adams
12. Don't Dream It's Over
13. In My Life
14. Yeh Yeh feat. Georgie Fame
15. Sorry Seems To Be The Hardest Word  ※Live
16. Wallflower ※Live
(13曲目以降ボーナス・トラック)

言ってしまえば、まさに最近のフォスターが得意とする有名曲のカヴァー集。でもこれほどベタなのは初めてだろう。それは、ダイアナが幼い頃から大好きだった曲を中心に選んだから。例外は6曲目<If I Take You Home Tonight>で、これは何とポール・マッカートニー卿から提供された新曲だそうだ。ダイアナはポールのジャズ・アルバム『KISS ON THE BOTTOM』にゲスト参加したが、その時にこの曲の存在を知り、「私に歌わせて」と願い出たという。トミー・リピューマが制作した『KISS ON THE BOTTOM』はすごくゴージャズな作りだったが、正直自分にはピ〜ンと来なかった。このダイアナの新作も、色合いはよく似ている。でも賞賛できなかった原因は、おそらく選曲にあったのだろうと改めて思っている。曲の善し悪しやアレンジではなく、我々聴く手側への浸透度、という意味に於いて…。

そしてもうひとつ、フォスターとダイアナのキーワードだと思えるのが、“カナダ” だ。解説にも、ダイアナが「私たちは二人ともカナダの同じ地域で育ったこともあって、お互い共通の、理解できる基盤があるの」と語ったとある。でもきっと2人は、この言葉以上にもっと強い気持ちでレコーディングに臨んでいたのではないか。

まぁ、直接的にカナダを歌ったワケではない。ブライアン・アダムス、マイケル・ブーブレとカナダ人シンガーとのデュエットが多いが、これはフォスター人脈とタイミングを考えれば自然なこと。フォスターの最新プロデュース作であるブライアン・アダムス『TRACKS OF MY YEAR』と本作とは、企画内容がほとんど同じだ。ではどこがカナダなのか?

それは、アルバムを貫く寂寥感そのものが、雪深い厳冬のカナダを想像させるのだ。それこそ、温かくした部屋でラジオを聴きながら、静かに春の訪れを待つという…。タイトル曲はボブ・ディランのカヴァーだが、彼もまたカナダに面したミネソタの五大湖畔の街に生まれている。だからこそ、オープニングはママス&パパスの<California Dreamin'>、本編ラストは時の訪れを教えてくれる<Don't Dream It's Over>でなければならなかった。陽気な<Yeh Yeh>が収録から外されてボーナス曲に甘んじたのも、そのコンセプトを考えれば当然のように思える。

あまり話題になっちゃいないけど、スティヴン・スティルスやグレアム・ナッシュ、ティモシー・B・シュミットらがバック・ヴォーカルで参加してたりも。まさに今の季節にピッタリの作品です。