tom jans
渋谷で一件打ち合わせをこなし、RENAJA "New Album Pre-release & Birthday Live" @目黒Blues Alley Japanへ。本来はこの日がレコ発ライヴになる予定だったが、諸々制作ワークの遅れで発売は6月へ延期に。そのため若干中途半端なポジションのライヴになってしまったものの、新曲を交えたステージはいつもよりフレンドリーな雰囲気で楽しめた。新編成のバックの試運転としても上々で、ゲストのcherry(from Sparkling☆Cherry)のコーラスもフィットしていた。その模様は、RenajaのFacebookタイムラインでご覧下さい。

…というワケで、こちらは引き続き4月15日発売のネタを。きっと心待ちにしていた方もいるであろう、シンガー・ソングライター:トム・ヤンスの生前最後のアルバム『CHAMPION』(82年作)が初CD化です。

ドビー・グレイがスマッシュ・ヒット(全米61位)させたのを筆頭に、エルヴィス・プレスリー、ミリー・ジャクソン、ケニー・ロジャース、リター・クーリッジ&クリス・クリストファーソン、オリヴィア・ニュートン・ジョン、そして近年ではディキシー・チックスがカヴァーしている名曲<Loving Arms>のソングライターとして知られるヤンス。元々はボブ・ディランに影響されてギターを弾き始め、20歳頃からサンフランシスコ近辺のフォーク・クラブやカフェで歌い始めている。それを観たジョーン・バエズから妹ミミ・ファリーナを紹介され、デュオを結成。71年に『TAKE HEART』を発表した。

そのミミとのライヴで歌い始めた<Loving Arms>がドビー・グレイに取り上げられてヒット。それを機にソロ活動に転じ、74年にメンター・ウィリアムス(かの名作曲家ポール・ウィリアムスの兄)のプロデュースで再デビューする。熱心なシンガー・ソングライター好きに賞賛されるのは、75年の2nd『THE EYES OF AN ONLY CHILD(子供の目)』。だがその手のファンは、返す刀でこの4作目『CHAMPION』を “AOR路線の凡作” と切り捨ててきた。

でも82年当時、AORファンの間でこのアルバムが賞賛された事実はない。かく言う自分も “悪くはないけど中途半端” というイメージを抱いていた。何せこの頃はAOR全盛で、次から次へとAOR名盤が誕生していた時期。ヤンスには分が悪く、ソフトでナイーヴな作りの本作は、その流行の波に呑み込まれて完全に埋もれてしまった。

だが本作も発売から33年。先入観や余計なバイアスのないニュートラルな感性で聴くと、SSWファンもAORファンも納得できる “滲みる曲” の存在に気づかされる。傑作とは言わないが、再評価には充分な内容だ。決してこのまま埋もれさせても構わない作品ではない。

そもそもヤンスの旧作を遡れば、『子供の目』にはボズ・スキャッグス『SILK DEGREES』の前哨戦とも言えるナンバーが入っていたし、その次の『DARK BLONDE』(76年)は、ボズやアース・ウインド&ファイアーを手掛けたジョー・ウィザートのプロデュース。そこでヤンスは自前のバンドを率い、ディスコ・ブームに目配せしたファンキー・チューンにトライしている。それを考えれば、この『CHAMPION』が突然の変節ではなかったことが分かるはず(実はその間にお蔵入りのアルバムがある)。SSWファンは、ジェイムス・テイラーやジャクソン・ブラウンらに求め得なくなっていたモノをヤンスに期待し、彼自身の指向には目を背けていたに過ぎない。

プロデュースとアレンジはドン・グルーシン。当時のドンはリー・リトナーの片腕でもあったから、リトナーやアーニー・ワッツ、スティーヴ・フォアマンといった周辺人脈がこぞって参加している。更にTOTOからジェフ&スティーヴ・ポーカロ、スティーヴ・ルカサー、デヴィッド・ハンゲイトの4人、当時は解散状態だったリトル・フィートからビル・ペインとポール・バレアが参戦。再結成フィートに加わるフレッド・タケットが一緒なのも興味深い。素敵なハーモニーを聴かせてくれるのは、麗しのヴァレリー・カーター。

こうした面々が揃っている割に薄口な仕上がりになったのが、SSWやAORのフリーク双方から敬遠された原因だろう。逆に当時からこのアルバムを素直に愛でていたのが、実はオフコース/小田和正ファン。実はアルバム・タイトル曲<チャンピオン(There's A Champion On My Side)>が、オフコース<愛の中へ>の改作だったのだ。そのためその筋のファンから注目されたワケだが、逆にウルサ型のSSW〜AORマニアからは “商業的” とレッテルを貼られるハメになった。いま思えば、マニアならではのこだわりは、時と場合次第で実に厄介なシロモノへと変貌してしまう。

トーキング・ブルースの<Cool>なんて、初期のベン・シドランみたいで、ホントにクールなんだけどネ。