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これは一部に待望論があったんじゃないかな? スペクトラム〜AB'Sといった名グループで、ベース奏者/シンガーとしてフロントマン的役割を担ってきた渡辺直樹の1st/2ndソロが、ようやくの初復刻(最初からCD発売があったので初CD化ではない)。どちらも87年のリリースだから、約28年ぶりのリイシューである。

渡辺直樹のリーダー作というと、スラップ・ベースがビシビシの、仕掛けの多いテクニカル・フュージョンを期待する向きもあっただろう。彼自身、エイブラハム・ラボリエルやルイス・ジョンソンなどをフェイヴァリットに挙げていたから、それでも何ら不思議はない。でも彼は敢えてそこへ進まず、もう一方の武器であるヴォーカルを前面に打ち出した。楽曲もすべて自前で、AB’S仲間で作詞家としてキャリアを積んでいた安藤芳彦が曲作りのパートナー。こだわったと思しきは、ベースよりもむしヴォーカル・ハーモニーで、この2作では一人多重によるワンマン・コーラスを貫いている。スペクトラムやAB'Sでもそうしたコーラスへの愛着を示していたが、ソロ作ということで、自分のやりたいようにコーラス・パートを構築したのだろう。

『SHE』のレコーディングに参加したのは、江口信夫(ds)、浅野祥之(g)、山崎透(kyd)という、同世代の敏腕ミュージシャンたち。AB’Sで一緒だった松下誠も2曲ギターを弾いている。アーバンなポップ・サイドとAB’Sを髣髴させるソリッドなジャズ・ファンク・サイドが共存しているのが、このアルバムの特徴。都会の現実と甘い想い出の狭間で揺れるメロウ・ミディアム<ベランダのカリブ>は、昨年発売された拙監修・選曲のコンピレーション『Light Mellow Moment』でもエピローグにセレクトさせて戴いた。メロディックなベース・プレイと多重コーラスだけで成立する<カプチーノはさよならの苦さ>は、その後の直樹氏がソロ・ベースの道へ進むことを考えると極めて重要な楽曲と言える。

その9ヶ月後に出た『STAR CHILD』は、大きな路線変更はないながらも、陽光を感じさせるソフト・イメージにシフト。参加ミュージシャンも多彩になり、前作の3人に加えて、元AB’S組の芳野藤丸(g)と岡本敦夫(ds)、再結成AB'Sに加入する山田秀俊(kyd)、パラシュートのギター・コンビである松原正樹と今 剛、それに島村英二と宮崎全弘といったベテラン・ドラマーが名を連ねた。カナザワ的リコメンドは、ファルセットで歌う<最後のコイン>、ホイットニー・ヒューストン&ジャーメイン・ジャクソンの名デュエットに影響された<Are You Lonely?>、都会の虚構に本音を探す<週末はOFF?>という冒頭のアーバン・ポップ3連発。たおやかに仕上げられたバラード<音楽>は、アニメのテーマ・ソングで人気を得たアイドル・シンガー “南翔子” こと妹の春美とのデュエットで、イントロのピアノはクラシックを教えている母、間奏はジャズ・ピアノ奏者の祖父と、音楽一家である渡辺家総出演のレコーディングになった。

最近は表立ったニュースが途絶えている直樹氏だが、AB'Sの活動再開待望論なども渦巻く昨今。彼のネクスト・ステップに期待しつつ、今はこのリイシューを楽しみたい。

発売はタワー・レコード限定のLight Mellow's Picks × Tower to the Peopleシリーズにて。