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三十路目前にようやくソロ・デビューを果たした苦労人、新井正人のシティ・ポップス全開1st〜3rdを、我が【Light Mellow's Choice】からリイシュー。新井正人は77年に3人組ダイアリーでデビューし、79年にPALに加入。桃井かおり主演のTVドラマ『ちょっとマイウェイ』の主題歌<夜明けのマイウェイ>をヒットさせ、注目を浴びた。しかしPALはメンバーの方向性の違いから、3年あまりで解散。新井はCMやアニメで歌いながらチャンスを伺い、87年にソロ・デビューへ漕ぎ付け、コンスタントに3枚のアルバムを発表する。サポートはすべて安心印のセンチメンタル・シティ・ロマンスで、アートワークは鴨沢祐仁(08年没)。この揺るぎないトライアングルが、この遅れてきたシティ・ポッパーを支えた。

1作目の『MASAHITO ARAI』は、全曲新井自身の作曲。アレンジはセンチの中核:告井延隆が手掛け、ストリングスのみ中西俊博が担当した。バックにはセンチ+マック清水(perc)+ホーン・セクション。村田和人がバック・ヴォーカルを付けている。そこから飛び出すサウンドは、オープナーの先行シングル曲<君は今…>からして、もう充分にハイ・クオリティ。如何にも80’sらしい深めのリバーブに包まれるものの、バランス感に優れたセンチ勢のアレンジや演奏、安定感のある新井のハイトーン・ヴォーカルが相まって、何とも心地良いアーバンな空間が繰り広げられる。それこそ捨て曲皆無の完成度で、一気に聴き通してしまうほどだ。もし手始めに1枚選ぶなら、まずは本作。オリジナル盤のエピローグだったバラード<ラヴ>の英語ヴァージョンをボーナス収録している。

翌88年の2nd『FUZZY』は、前作の延長にありながらも、よりポップ色を強めたサウンド・メイクが特徴。センチにしては意外と思えるほどの音壁を施した典型的80'sスタイルと、ビートルズやビーチ・ボーイズ、モータウン・サウンドをモデファイしたサウンドが拮抗し、その間隙を縫ってセンチらしいアコースティック・チューンが存在感を発揮している。洋楽ファンなら思わずニヤリとしてしまう瞬間が鏤められた、楽しさいっぱいの作品だ。

もちろん8ヶ月後に発表された3rdアルバム『NECESSARY』でも、ドラスティックな変化はなく…。タイアップも増えたが、決定的なシングル・ヒットに恵まれず、新井は一旦表舞台を去ることになってしまった。だが新たな出会いから、カルロス・トシキに継ぐオメガトライブ3代目シンガーに抜擢され、93年に “ブランニュー・オメガトライブ” でシーンに返り咲いている。ただしこの時期のオメガトライブにはバンドとしての実体はなく、中身は実質的な新井のソロ・プロジェクトだった。

近年は作曲活動やアニメ方面の仕事が多くなっている新井だが、今も地道に歌い続けているというから、さすが実力派。リアルタイムでは、アートワークのイメージからライト・ユーザーを獲得した一方でウルサ型の音楽ファンを逃した面があったが、このリイシューを機に再評価を促したいところである。