hideyuki_komatsu
コレ、黙って音だけ聴かせたら、誰もが70'sの洋モノ・フュージョンだと思うだろうなぁ…。それもまだ “フュージョン” という呼称が定着する前の、“クロスオーヴァー” と呼ばれていた頃の極上メロウ・スタイル。そういやアルバム・タイトルも、ジョージ・ベンソン張りに『BREEZIN'』だったわ!

さてこの小松秀行は、元ORIGINAL LOVEのベース奏者。グループを離れてからは古内東子のサウンド・プロデューサーとして活躍し、現在は鈴木雅之のツアーに参加する傍ら、幅広くセッション・プレイヤーとして働いている。イメージとしては、いわゆるジャズ・フュージョン系のミュージシャンではなく、リーダー・アルバムを出すなんてことはおおよそ考えられないヒトだ。ところがヒョンなことから人的繋がりができ、このアルバムを作ることになったらしい。

で、コレがえらくイイんだな インスト曲を中心に歌モノもいくつか、という作りだが、インストはラリー・カールトンがいた頃のクルセイダーズとか全盛期のCTIモノのようだし、歌モノはインコグニートや初期ジャミロクワイなどアシッド・ジャズに通じるテイストがある。広い意味での、アーベインな洗練派ソウル・ジャズ。オビのキャッチコピーには、“グルーヴィーでセンシュアルなナイト・ミュージック” とあるが、まさにその通り。要は “エッチ” ってコトです 

アートワークもベース・プレイヤーのリーダー作っぽさは皆無で、ほとんどソウル・シンガーのそれ。自分はラリー・ハンコックのそれを思い出してしまったが、果たして…? ちなみにこのシチュエーションだと、彼が目線を落とした先には当然イイ女が半裸でセクシー・ポーズをキメてそうだが、床に横たわっていたのは愛器のフェンダー・ベースでありました。

参加メンバーもバリバリのフュージョン系というより、松本圭司(kyd)や盟友:佐野康夫(ds)など、歌モノを得意とするセッションマンたちが中心。ヴォーカルにはTIGERや鈴木桃子(元COSA NOSTRA)が参加している。そしてゲストに鈴木雅之(scat)と田島貴男(g)。サウンドメイクもエレピが気持ちよく鳴っていたり、トロンボーンやフルートが効果的に配されていたりで、キメキメのド・フュージョンとは隔世の感がある。それでいて、流麗なストリングス・アレンジには冨田恵一風のヒネリも隠し味的に。

いま周囲を見渡すと、日本のフュージョン・シーンは完全に停滞していて、アイディアが枯渇。未だに80年代の顔ぶれが大手を振って歩いている。ベテランが元気なのは良いことだが、いつまでも◎シオ◎アや◎-スクエ◎じゃイカンのだ。その一方で、中堅世代からこういうアルバムが出たり、Fire Hornsみたいなバンドが徐々に人気を集めている。スガシカオやジャンク フジヤマのバックでも活躍した面々による Spicy Kickin'も、メジャー・デビューが決定した。往年のフュージョン・ファンが見過ごしがちなこの辺りが、きっとこれからの日本のインスト・シーンを支えていくことになるだろう。それが楽しみなカナザワである。