hiroshi sato_sailinghiroshi sato_science
佐藤博のアルファ期のオリジナル・アルバム再発が、ようやく始まる。まずは通算5枚目の『SAILING BLASTER』(84年)と、6枚目の『SOUND OF SCIENCE』(86年)が、通販専門のBRIDGE INC.から。最近ではラジや大野方栄の紙ジャケを出している要注目のレーベル。それぞれに初CD化音源含むボーナス・トラックを追加し、最新リ・マスタリング/Blu-spec CD2/紙ジャケットの豪華仕様になっている。ライナーはどちらも不肖カナザワと、我らが『Light Mellow 和モノ Special』の執筆陣のひとりで、ファン・サイト『佐藤博☆Recording Session Database~Awakening~』管理人である某女史のダブル解説。

まず『SAILING BLASTER』は、かの名盤『AWAKENING』に続くアルファでの2作目。86年に初CD化された時にジャケットが差し替えられたが、今回はレコード時代のオリジナル・アートワークで復刻された。CD版は封入されたブックレットで復活。音の方は、『AWAKENING』の魅力を引き継ぎつつもバラエティに富んだ音楽性を打ち出したのが新しく、佐藤のルーツであるファンクやブルース系のナンバーにもトライしている。約2年のインターヴァルの間にドラム・マシンやサンプリングが著しく進化し、MIDIによる同期も可能になったが、そうした最新テクノロジーに取り組みつつ、楽曲によっては敢えて生のバンド・スタイルにこだわった。例えばブルース色の濃い楽曲では、関西時代の仲間である山岸潤史(g)と石田長生(g)、正木五郎(ds)、藤井裕(b)に、ハープの妹尾隆一郎が絡むという構図。当時の佐藤はジョギングでコンディションを整えていたらしく、ヴォーカルも格段に良くなった。『AWAKENING』の影に隠れがちだが、アルファでのソロ活動の方向性をシッカリ定めたのは、むしろこのアルバムだったかも知れない。

そしてその2年後、新録曲やシングル曲から成る編集盤『THIS BOY』を挟んで登場したのが『SOUND OF SCIENCE』である。タイトルは言わずと知れたサイモン&ガーファンクルの名曲のモジリ。音は “科学の音”に相応しいプログラム中心のダンス・ポップだが、打ち込み特有の無機質さとは無縁の、ヒューマニズム溢れるサウンドを提示している。テクノロジーの加速的進化によってトーンが尖鋭化したり、ビートが激しさを増す中、彼はむしろ流れに逆らうように人間臭さを打ち出した。機械に振り回されているクリエイターが多い中、彼はフェアライト、カーツウェル、シンクラヴィアといった当時の新鋭機を “まだまだ…” と見下し、その限界を知ったうえでツールとして使って、最後はヒトに委ねる。テクノロジーに過剰な期待も依存もしないから、打ち込みと生音が無理なく融合し、ナチュラルに響くのだ。打ち込み期の頂点とされる次作『FUTURE FILE』への重要なステップが、この『SOUND OF SCIENCE』である。

さて、このBridge Inc.発の2枚は、共に今週27日の発売。追って翌週6月3日には、今度はソニー・ミュージック・ジャパンから後続の3枚『FUTURE FILE『と『AQUA』『TOUCH THE HEART』がリイシューされる。こちらの仕様も、ボーナス・トラック/最新リ・マスタリング/Blu-spec CD2だが、パッケージは通常のジュエル・ケース。当然ツッコミたくなるトコロなれど、その辺りの大人の事情はお汲みいただき、まずは5枚揃って再発されただけでも “ヨシ” としていただければ…

後続作はまた追って紹介します。

『SAILING BLASTER』(BRIDGE Inc.のサイトへ)
『SOUND OF SCIENCE』(BRIDGE Inc.のサイトへ)