ricky peterson
ベン・シドランが90年にスタートさせたGo Jazzのリイシューが始まっている。Go JazzはDr.Jazzの異名を取るベンの持ち味が遺憾なく発揮されたレーベルで、彼自身がかつて所属し、トミー・リピューマがプロデューサーを務めていたブルー・サムに通じるユニークさとハイブリッドな魅力があった。当然カナザワも当時から食指を伸ばしていたが、あまり商売っ気がなく長続きしなかった。ベン自身の作品にしても、レーベル第1弾『COOL PARADISE』こそ好盤だったが、後続は趣味性が高すぎてパッとせず…。ジョージィ・フェイム、ギターのフィル・アップチャーチなど目を付けどころは鋭いが、当時は半ば忘れられた存在で、マニアにしかアピールしなかったように思う。

そんな中で奮闘していた若手が、このリッキー・ピーターソン。トミー・リピューマとベンのプロデュースによるワーナー盤『NIGHT WATCH』(90年/1000円盤で再発)でデビューし、インスト楽曲に混ざるAOR系ヴォーカル・チューンで脚光を浴びた。何故ならその歌モノ3曲が、ビル・ラバウンティ2曲にペイジスという、かなりマニアックなAORカヴァーだったからである。

元々ミネアポリスの出で、鍵盤奏者としてプリンス・ファミリーに貢献。同時にデヴィッド・サンボーンのバンドでワールド・ツアーをこなし…と、瞬時にトップ・クラスのミュージシャン集団に仲間入りした。サンボーンのサポートは今も断続的に続くいるが、自分のとってのリッキーは、やはりAORフリークぶりを遺憾なく発揮してくれるソロ・アーティストである。

そんな流れがあってか、この2ndでは歌モノの比重が逆転。全10曲中7曲がヴォーカル・チューンで、何と言ってもボビー・コールドウェル<What You Won't Do For Love(風のシルエット)>の存在がデカイ。良い曲だからとそのままカヴァーするのではなく、Aメロなどはかなり凝ったジャジーな解釈を加えている。盲目的なボビー・ファンは「名曲が台無し!」なんて半狂乱になるのかもしれないが、リッキーの場合はそこが美味しいのだ。ベニー・グッドマンで知られ、フランク・シナトラも歌っていた<Goodbye>にしても、斬新なコンテンポラリー・グルーヴでリメイクしている。一方ラストの<King Of The World>は、モハメド・アリをネタにしたプリンス流儀のラップ入りヘヴィ・ファンク。これまがまたメチャ カッコ良い。

参加ミュージシャンは、リッキーの兄でベンのブレーンを務めるビリー・ピーターソン(b)、同じくリッキーの弟でセント・ポールとしてソロ活動していたポール・ピーターソン(cho/元ザ・ファミリー)の他、ハイラム・ブロック(g)、ヴィニー・カリウタ(ds)、ドン・アライアス(perc)、エリック・リーズ(sax)、マイケル・ブランド(ds)、ボブ・マラック(sax)、リオ・シドラン(Cho)等など。早い話、サンボーン・バンドやプリンス・ファミリー、もしくはGo Jazz関係などが多数サポートしている。それでもリッキー自身のアーバン・センスがシッカリ確立されているから、多彩なゲスト陣にもまったくブレることなく…。実際Go Jazzでの次作『I TEAR CAN TELL』(95年)も同路線で、そこではラーセン・フェイトン・バンドの曲を取り上げて我々を唸らせた。99年以降、オリジナル・リーダー作を出していないのが残念。

それにしても、今回のGo Jazz再発。既にベン自身、Nardisという新レーベルに軸足を移しているのに、何故ココへ来てのリイシューなのか? どうも何かビジネス的裏事情が見え隠れするが、前述したジョージィ・フェイムやウィル・リーの初リーダー作など、見過ごされがちな好作もあるので、再発見には良い機会になるだろう。