haeb alpert_lani hall
ハーブ・アルパート&ラニ・ホールのライヴを観に、Blue Note Tokyo 4daysの最終日2nd showへ。チェックインしてからしばらく時間が空いたため、エントランスで見るとはナシに来場者を観察していたが、年齢層はかなり高め。中心は50〜60歳代だろうか。当然 業界の重鎮も数多く詰めかけている。元々はこの春に来日するはずだった夫妻だが、ハーブの体調不良による延期があり、晩夏の来日となった。訊けば前回の来日コンサートは1967年というから、実に48年ぶり。プロモーション的な来日はあったようだが、もう齢80を数えるのだから、これは実に貴重なライヴになりそうである。

年輩の方々や一般音楽ファンにとっては、ハーブ・アルパートといえばコレ、AMラジオのニッポン放送の長寿深夜番組『オールナイト・ニッポン』のテーマ曲<Bittersweet Samba>だろう。67年の番組スタートから現在も流されている楽曲で、日本ではハーブの名前は知らずともこの曲は聴いたことがある人が多い。それほど広く浸透している曲だ。

でもカナザワ的には、ハーブはやっぱり79年の全米No.1ヒット<Rise>の人であり、かのA&Mレコードの “A” という印象。英国では007映画『カジノ・ロワイヤル』のテーマが人気だそうで、それぞれの国それぞれの世代によって聴かれ方・接し方が違う。そしてオシドリ夫婦のラニ・ホールは、セルジオ・メンデス&ブラジル'66全盛期のシンガー。ソロになってからは、CTI創世期の『SUN DOWN LADY』やラーセン=フェイトンを従えたAORスタイルの『DOUBLE OR NOTHING』(79年/未CD化)という好盤もあった。

ステージは、全体的にラウンジーな雰囲気で、ワインでも傾けながらゆったり楽しむ雰囲気。スタンダードと自前の大ヒット曲を取り混ぜ、軽やかなポップ・ジャズ・センスで披露する。ハーブは愛期のトランペットにカップをつけたミュート奏法で、全編ソフトで甘美に。そして時々繊細なヴォーカルも披露した。ミュージカル『マイ・フェア・レディ』に提供した<I’ve Grown Accustomed To Her Face>のエンディングでは、歌モノで全米No.1を取った<This Guy’s In Love With You>のフレーズを奏で、やんやの喝采。それで気を良くしたか、“みんな歌える?” とばかりにやおらそれを歌い始め、オーディエンスと合唱する一幕も。勝手に凛とした佇まいの矍鑠とした御仁を想像していたが、その実像は本当に優しそうなお爺ちゃん。MCではユーモアもたっぷりだ。偶然すぐ隣で観ていた若い某ジャズ・シンガーは、「なんかカワイイ」と宣っていたほど。

ラニの歌声は今も伸びやかで、本当に元気そう。元来ボサノヴァ・シンガーなので歌唱力で勝負するコトはないのけれど、年齢を考えたらピッチはかなり正確な方だろう。<Fool On The Hill>ではオーディエンスに歌わせ、<Mas Que Nada>では大いに盛り上がった。

そして何より、ハーブとラニの仲睦まじさが微笑ましく…。普通こういうライヴだと、一方は自分の出番だけ登場して、あとはステージを下りてしまうのが普通だ。ところが彼らは、2人ともずーっと出ずっぱりで、どちらもまったくステージを下りない。ハーブがペットを吹く時ラニはスツールに腰掛け、彼女がマイクに向かうとハーブは愛器を抱えたまま、互いにパートナーを見守っている…。そして時折目を合わせては笑顔を交わし、曲が終わると寄り添ってオーディエンスに手を振るのだ。もちろんアレンジやプレイオーダーに工夫を施し、それぞれが自然にステージに残れるようにしているが、ハーブだけが目立ってしまうことなく、まさに夫婦随伴のパフォーマンスであることを示していた。結婚して41年だそうだが、羨ましいよなァ、こういうカップル…

さて、バックを務めるのは、AORファンにはお馴染みのビル・キャントス(kyd)、6弦ベースを自在に操るフセイン・ジフリー(b)、そしてプロデューサーの顔も持つマイケル・シャピロ(ds)で、1曲だけギタリストが参加。ビルとマイケルはセルジオ・メンデスのバックでも活躍している。09年発表の上掲ライヴ盤(全米ツアーを収録したもの)も既に同じメンバーで録られており、生演奏もだいぶ熟れた印象を受けた。ビルは上掲ライヴとは違って自作曲こそ歌わなかったが、ハーモニーをつけたりスキャットしたり。おそらくセットは日本向けに組んでいるのだろうが、近年のハーブ夫妻
は、小規模ながらもそれなりにライヴをこなしていたと思われる。

そして本編ラストは、13年の『STEPPIN' OUT』から、TACOで大ヒットした<踊るリッツの夜〜Puttin’ On The Ritz>(元々はアーヴィング・バーリン作のスタンダード)。スルスルと降りてきたスクリーンには、この曲のPVが流されたが、それがかなりのクオリティ。カナザワは初めて観たが、ハーブのMCに拠ればワンカメラのロング・ショットによる撮影で、カットや編集は皆無だそうだ。最近の若手アーティストがよく取り入れている斬新な手法なのだが、この夜のオーディエンスにはショッキングに映ったのではないだろうか。新作もリリース間近だそうで、80歳のハーブ、かなり攻めてます 終わってみれば、1日ワン・ステージでたっぷり1時間40分という構成は、Blue Noteでの公演では例外中の例外。いやいや、イイもの見せていただきました。

ふとライヴを観ながら、そういや何処かでハーブのことをいろいろ書いたな、と思い出し、そのまま記憶を辿って、『RISE』の07年紙ジャケ再発盤のライナーを書かせて貰ったんだと思い出した。『RISE』以降のフュージョン期作品のリイシューが立ち後れているけれど、現在はハーブ自身が権利を持っているはずなので、そろそろお願いしたいな。

【Setlist】

1. Moondance
2. Chattanooga Choo-Choo
3. O Pato
4. Besame Mucho
5. Don’t Cry
6. Let’s Face The Music & Dance
7. Fly Me To The Moon
8. Herb Alpert & The Tijuana Brass Medley
   Rise〜Whipped Cream〜Mexican Shuffle〜Tijuana Taxi
   〜A Taste Of Honey〜Bittersweet Samba
9. Sergio Mendes & Brasil ’66 Medley
   Up On The Roof〜The Look Of Love〜Fool On The Hill
   〜Like A Lover〜Mas Que Nada
10. I’ve Grown Accustomed To Her Face
11. Moda De Viola
12. It Might As Well Be Spring
13. Begin The Begin〜I’ve Got You Under My Skin
14. Puttin’ On The Ritz
--- Encour ---
15. Antonio Carlos Jobim Medley :
   Agua De Beber〜Corcovado〜Waters Of March〜One Note Samba
16. Night And Day
17. La Vie En Rose
18. Bittersweet Samba