anderson ponty
“APB”と略されてしまうと、思わず同じ頭文字のサザン・ロック系やR&B系の別バンドを思い出してしまうけれど、こちらの “APB” は、元イエスのジョン・アンダーソンと、フランク・ザッパ&マザーズやマハヴィシュヌ・オーケストラで活躍したジャズ・ヴィオリン奏者ジャン・リュック・ポンティが組んだ双頭ユニット “アンダーソン=ポンティ・バンド” のこと。正直最初は、イエスを離れたジョンの老後対策顔見せ興行ユニットと思っていたが、アルバムを聴いてビックリ。中途半端な仕事の多かったジョンが、かなりポジティヴなコラボレイトを展開していて、コイツは積極的に応援しないと、と思い直した。

顔見知りだったジョンとジャン・リュックが本格的にコラボするようになったのは、割と最近らしいが、スーパー・バンドとしてゼロからスタートしたのではなく、ジャン・リュックのバンドをベースにジョンが乗っかる形。これが功を奏して、テクニカルな楽曲もフュージョン風にビシビシ キマっていく。ジャン・リュックのキャリアを振り返ると、基本はジャズに根差しつつも、かなり古くからプログレ的センスを覗かせおり…。実際 彼のアルバムやツアーには、無名時代のアラン・ホールズワースやスティーヴ・スミス(ds/最近ジャーニーへの復帰が伝えられた)が参加した時期もある。このARPのリズム隊も黒人コンビで、特にドラムのレイフォード・グリフィンは、スタンリー・クラークやジャズ・クルセイダース、パトリース・ラッシェン、ケニーG.といったフュージョン系から、アイズレー・ブラザーズ、パティ・ラベル、グラディス・ナイト、ボーイズ II メンといったR&B系まで、多彩なセッション履歴を有している。そうした可変自在なバンドの存在が、ジョンにはとても刺激的で新鮮に映ったのではないか。

長年イエスを母体に歌ってきたジョンは、“イエスではできないこと” をソロ活動のメインに据えてきた。その多くは他流試合であり、時には弾き語りツアーにも出たり、旧友リック・ウェイクマンとのデュオも。だが、イエスが自分に酷似した若手シンガーを迎え、もう後戻りはできないと腹を括ったのだろう。新しくパートナーとなったジャン・リュックは、イエスにも似たプログレ的指向性だけでなく、ジャズやクラシックなどをオールラウンドにこなせる、まさにジョンには打って付けの相手だ。

ライヴ録音をスタジオでアップデイトした、この1stアルバム。イエス時代の著名曲再演は、ライヴならではのファン・サーヴィスと思いきや、彼らならではの素材のひとつして、少し突き放した取り組み方を披露している。例えばレゲエになった<Time And A Word>、オリジナル以上にオーガニックになった<Wonderous Stories>、ケルティックな色彩をまとった<And You And I(同志)>などは、確実に原曲に新しい息吹を与えた。それがジャン・リュックのオリジナル曲や、2人で書いた新曲と違和感なく同居している。作品的に言えば、<Lonely Heart>や<Roundabout>といった代表的ヒットはCDには収めず、ステージ用のマテリアルとして温存した方が良かったと思うが、グレー・ゾーンのファンには美味しい餌も必要ということだろう。

本家イエスは6月に唯一のオリジナル・メンバーだったクリス・スクワイアが亡くなってしまい、音楽的にはますますの硬直化が懸念される。過去の名作の素晴らしさは今更書くまでもないが、老い先短いバンドの将来に光明が見えるのは、このAPBの方ではないか。