loft sessions
今日も引き続き『和モノ AtoZ』連動リイシューからのチョイスで、78年の好企画盤『LOFT SESSIONS Vol.1』をご紹介。97年以来19年ぶり2度目の再発/紙ジャケ化になるが、アンコール・プレスがあったほどの人気盤なので、これは嬉しい復刻だ。その人気の秘密は、何と言っても参加した新人女性ヴォーカル陣の豪華さと、瑞々しい名演・名唱が詰まっているからに他ならない。

“ロフト・セッションズ” という名前の由来は、都内のライヴ・ハウス:ロフトにゆかりの若手女性シンガーたちをフィーチャーしているから。バックもそうした新人ミュージシャンたちと若手セッションメンの寄り合い所帯となっていて、その総勢は約50名。ザッと紹介してみると…

1. 星くず / 上村かをる
2. ブラック・コーヒー / 大高静子
3. こぬか雨 / 高崎昌子 
4. 雨はいつか / 吉田佳子
5. ハリウッド・カフェ / 竹内まりや
6. 気楽にいくわ / 高崎昌子
7. 8分音符の詩 / 竹内まりや
8. きょうから… / 上村かをる
9. Motif-M / 堤遥子

パッと目につくのは、竹内まりやの名前だが、これはまだデビュー前の貴重音源。今回はオリジナル盤に入っていた歌詞カード/解説が完全復刻されていて、その紹介では、慶応大学在学中で、“本格的に日本語のポップスを歌うのは初めて” なんて書いてある。実際5曲目<ハリウッド・カフェ >は、元々まりやが英語で歌っていたそうだが、ココでは大貫妙子が書き下ろした日本詞で歌われている。バックはムーンライダース。一方7曲目<8分音符の詩 >は言うまでもなく鈴木茂のカヴァーで、サポートはセンチメンタル・シティ・ロマンス+α だ。

大高静子は現・大高静流としてお馴染み。ココでは吉田美奈子を思わせる歌いっぷりを披露するが、この頃はフローラ・プリムに感化され、ジャズ・シンガーを目指していたらしい。バックは、大橋純子抜きの美乃家セントラルステイション+土岐英史が務める。

スターターの上村かをるは、関西ブルース系ミュージシャンと歌っていた新人シンガー。まずは久保田麻琴&夕焼け楽団<星くず>をグルーヴィーにカヴァー。鳴瀬喜博がセッション・リーダーとなり、バックスバニー(ジョニー吉長、難波弘之、永井充男)+野呂一生(カシオペアのデビュー前)+マック清水(紀ノ国屋バンド)がサポートしている。この曲は最近、高崎昌子が歌う<こぬか雨>とのカップリングで7インチが切られた。 もう1曲の<きょうから… >は、彼女のオリジナル。同じく鳴瀬を中心に、村上ポンタ、山岸潤史らの一発録りでレコーディングされている。翌79年に出した唯一のアルバム『JUST MY FEELING』が、最近タワーレコード限定で復刻されたばかり(名義はKAORU)。

シュガー・ベイブ<こぬか雨>を小粋なシティ・ソウルに仕立てた高崎昌子は、紀ノ国屋バンドのリード・シンガー。ここでは、りりィのバイバイ・セッション・バンドのkyd:緒方泰男を中心に、西哲也(ds/元ファニー・カンパニー)、田中章弘(b/元ハックルバック)、中島正雄(g/元ウエストロード)といった関西系リズム隊がサポートにつく。ファンキーな6曲目<気楽にいくわ>は、彼女のオリジナル。こちらは、本籍:紀ノ国屋バンドのメンバー+向谷実+ホーン・スペクトラムによるバックアップである。

本作発表時に一番名前が通っていたのが吉田佳子だ。彼女は、丸山圭子やケメこと佐藤公彦とピピ&コットを組んでいたフォーク系シンガー。しばらく渡米していて、このアルバムが帰国後の初仕事だったらしい。曲はセンチのカヴァーだが、ココではラスト・ショーの徳武弘文をリーダーに、ユーミンのバンド:ダディー・オーにいた平野肇・融兄弟、ムーンライダース岡田徹などが務めている。

そしてラスト、シンガー・ソングライター堤遥子による<Motif-M>は、ピアノの弾き語りをベースにした重厚な英語ナンバー。ホーン・スペクトラム、鳴瀬、山岸による歌伴は、あとからダビングされたそうだ。

フィーチャリング・シンガーの個性はいろいろながら、黎明期の和製フュージョン/シティ・ポップスの勢いもあって、若々しいヴォーカルと演奏が渾然一体となって耳に飛び込む。その生々しさ、ダイレクトな息吹きが素晴らしい。これを一つの作品にまとめたのは、やはりプロデュースを務めた牧村憲一さんの手腕だな。