tohru_shigemi
昨日に引き続き、これもご紹介が遅れてた一枚。3月中旬にリリースされたアルバムだけれど、カナザワはもっと早くに音を戴いてたので、かれこれ出会って4ヶ月ほどになる。でもコレをBGM的に鳴らしておくと、実にカンファタブルで気持ちがリフレッシュされるんだな。

主人公は、セッション・キーボード奏者の重実 徹。カナザワが彼の名を意識するようになったのは、山下達郎のバンドに参加したり、ノブ・ケインのメンバーに収まった頃からか。でも本当の出会いは、00年に aosis から出した初リーダー作『ORGAN J.』。ピアノやプログラムを併用しつつ、タイトル通りオルガンを大フィーチャーするという、なかなかユニークな内容だった。それでもやはりオルガンの音色にはこだわって創ったそうで、実に深い、イイ音がしていた。このブログを書くため久しぶりに引っ張り出したら、当時は無名だったサックスやトランペットが、デヴィッド・ボウイの『★』に多大なる影響を与えたマリア・シュナイダー・オーケストラのメンバーたちでビックリ。重実氏のセンスの良さは、もうそこでも存分に発揮されていたのだな。

おそらく、それ以来16年ぶりとなる2枚目のリーダー作が、この『SENSUAL PIANO』。またしても楽器をタイトルにしているから、今度はピアノ・メインのアルバムであるのはすぐ想像がつく。と同時に期待してしまうのは、やはりピアノの音色の美しさだ。

実際それは裏切られるどころか、逆にオツリがくるほど。それこそ、水も滴るような音の羅列。フレーズの流れ、美しいメロディ以前に、ピアノの調べが心の琴線を揺らす。他の音も必要最小限に抑え込まれ、鍵盤の響き、その余韻を、余すところなく伝えきる作りだ。

唯一のヴォーカル曲は、デルフォニクスのフィリー・ソウル・スタンダード<La La Means I Love You>。歌うは、重実氏がアレンジャー/鍵盤奏者を務めるMISIAのバンドのコーラス要員 Lyn。その抑揚の効いたソウル・ヴォイスに、なんとも言えぬ色っぽさが漂う。

同じ日本のジャズ系インスト作品でも、名の通ったJ−フュージョン勢は未だ80年代のフォーマットから抜け出せていない。でも近年のコンテンポラリー・ジャズ系作品には、より奔放でイマジネイティヴなモノが少なくない。重実氏のこのアルバムも、その最右翼といえそうだ。