tom snow_uptown
何とビックリ 職人ソングライターの名匠トム・スノウが72年に残した幻のソロ・デビュー・アルバムが、英Slipstearmなるインディ・レーベルによって発掘。その国内仕様盤が発売されている。

AOR的にはアリスタから82年に出した3枚目のソロ作『HUNGRY NIGHTS』で知られるが、元々はリタ・クーリッジの<You>、オリヴィア・ニュートン・ジョン<Deeeper Than Night>、ポインター・シスターズ<He's So Shy>、メリサ・マンチェスター<You Should Hear How She Talks About You>などを全米ヒット・チャートに送り込み、デニース・ウィリアアムスが映画『FOOTLOOSE』のサントラで歌った<Let's Hear It For The Boy>でチャート制覇を成し遂げた職業系ソングライターである。

初ソロ作は75年にキャピトルから出した『TAKING IT ALL INSIDE』。続いて76年に『TOM SNOW』を出したが、どちらもヒットにはならず、現在も未CD化のまま。逆にそれ以前に組んでいたカントリー・ロック・バンド、その名もズバリ『COUNTRY』のワン&オンリー作が先にCD化されている。近年になって90年代に録り溜められたデモ・マテリアルがパッケージ化され、デヴィッド・フォスターお抱えだった故ウォーレン・ウィービーがフィーチャーされていて話題になったが、それももう入手困難だ。

昨年はそのカントリーのアルバムに、バンドの前身であるフォンディラー&スノウの楽曲をボーナス収録したCDが英Slipstearmからリリースされて、オヨヨとなった。そんなところに、今度はこの幻のソロ・デビュー作登場で、またまたクリビツテンギョー。しかもプロデュースがピーター・アッシャー、録音メンバーがダニー・コーチマー(g)、ラス・カンケル(ds)、ウィルトン・フェルダー(b)、マイケル・ブレッカー(sax)というから、あまりに本格的で椅子からズリ落ちそうになった。どうやら相方マイケル・フォンディラーの彼女とアッシャーの妻ベッツィーが友達同士だった縁で、アッシャーがカントリーをバックアップ。2作目をプロデュースしたものの未発表に終わり、バンドも解散してしまった。そこでスノウの才能を評価していたアッシャーが、彼のソロ・デビューを目論んでレコーディング、という流れらしい。

72年の作だから決して垢抜けてはいないが、どうしてお蔵入りしたのかは謎。ジェイムス・テイラーやキャロル・キングが大人気の時期だから、もしリリースされていれば、当然それなりに注目されただろう。75/76年作に見劣り・聴き劣りすることはなく、その頃のシンガー・ソングライター・ブームに魅せられている人なら、むしろコチラに軍配が上がりそう。カントリー曲やファンキー・チューンも程よく収められ、バランス感もある。そこはお蔵入りしたとはいえ、さすがにピーター・アッシャー制作だ。

このCDのアートワークが当時用意されていたものかどうかは分からないが、トムがL.A.のキャピトル・タワーを横目で睨む構図が、なかなか皮肉。もしかしてこのアルバムを袖にしたのは、キャピトルだったのかな?