engelbert humperdinck
引き続き【AOR CITY 1000】から、意外や意外、英国の大御所ポップス・シンガー:エンゲルベルト・フンパーディンクの81年作『DON'T YOU LOVE ME ANYMORE(この熱き腕の中に)』を。おそらく「何故にこの人がココに登場するの?」と、狐に摘まれたような気分の人もいるだろう。一般的なエンゲルベルトのイメージは、60年代後半から70年代半ばに大活躍したシンガーで、甘いバラードを得意とし、特に女性人気が高かった。ポール・アンカやアンディ・ウィリアムスよりはキャラが濃ゆくて、トム・ジョーンズに近い。尾崎紀世彦がデビューした時は、和製エンゲルベルト、と言われたそうだ。

ではそんな人が何故AORなの? それは、マニアックな TOTO〜エアプレイ・ファンならとっくにご存知だろう。ジェイ・グレイドン、デヴィッド・フォスター、ジェフ・ポーカロ、デヴィッド・ハンゲイトにペイジスらが揃い踏みの、れっきとしたL.A.録音作だからだ。

今回の廉価シリーズ【AOR CITY 1000】は、数日前のポストにも書いたように、ドカ〜ンと100枚ものAOR及びその周辺作を出せるということで、マニア向けの奥の細道へ突き進んでいくより、AORの幅広さを前面に出したいと考えた。特に日本でのTOTO〜エアプレイ・ファンはどうもロック寄りに凝り固まってる傾向が強いから、もっと彼らの柔軟性を強調したい。そうしたところ、既によく知られているポール・アンカやディオンヌ・ワーウィックに加えて、今回はルー・ロウルズの初CD化が首尾よく決まったので、ならばこの機会に、日本では未CD化のコレも一緒に、と。

ただしプロデュースはゲイリー・クラインとニック・デカロ。リズム・アレンジは4曲グレイドンが手掛けたが、いつもの彼の手際とは違い、あくまでエンゲルベルトのヴォーカルに焦点を当てた作りになっている。それはやはり、業界の大立者であるチャールズ・コッペルマンの意向が利いているからだろう。

最近は急逝したプリンスの楽曲管理者として名前が浮上したコッペルマンだが、70年代からCBSやEMIの出版部門などで重役を務めた人。この当時は、現Sony/ATV音楽出版CEOであるマーティン・バンディアと共にザ・エンターテイメント・カンパニーなる制作会社を立ち上げ、バーブラ・ストライサンドやドリー・パートン、 ダイアナ・ロス、シェール…といった大物を抱えた。ゲイリー・クラインはまさにそこの実働部隊。メリサ・マンチェスターで名を挙げたデヴィッド・ウルファート、それにHEATのトム・サヴィアーノも、当時はこの人脈に属していた。あまり表には出てこないが、この頃の洗練されたMOR作品でL.A.産のモノは、かなりの確率でエンターテイメント・カンパニーが絡んでいる。

楽曲的にも、キャロル・ベイヤー・セイガー、ヘンリー・ギャフニー、スティーヴ・ドーフ等など、AORファンなら気になってしまうソングライターがズラリ。中でも染み入るようなブルース・ロバーツのバラード<I Don't Break Easily>は、9月にワーナーから再発される彼の1stソロ作でお馴染み。ゲイリー・ポートノイ作の<WhenThe Night Ends>と<say Goodnight>は、本盤と同発のゲイリーのアルバム『GARY PORTNOY(月影のロング・ナイト)』にも収録されている。

この辺り、2500円のフル・プライスでは手が出しにくくても、1000円なら!という、言わばオトナ買いに適したアイテムですヨ。