gerry beckley 016
<名前のない馬>や<金色の髪の少女>、<Ventura Highway>で知られるアメリカのジェリー・ベックリーが、久々のソロ・アルバムを発表した。タイトルの『CAROUSEL(キャラセル)』とは、いわゆるメリー・ゴー・ラウンドのこと。日本ではカルーセルという語源通りの仏語の方が馴染みがあるだろう。タイトル曲は、堂々巡りで行き場のない感情をサラリと表現したもので、ジャケットの空の色も、ちょっとグレー掛かったドンヨリした雲行きになっている。

ジェリーのソロ作が日本で出るのは、95年作『VAN GO GAN(ヴァン・ゴー・ギャン)』以来。その後も『VAN GO GAN』のリミックス・アルバム『GO MAN GO』(00年)、『HORIZONTAL FALL』(06年)、『UNFORTUNATE CASINO』(10年)とマイペースでソロ作を作ったが(他に編集盤あり)、自主レーベルHuman Natureからのリリースというコトで、日本発売は見送られた。本家アメリカを別にすれば、大御所3人のユニット:ベックリー = ラム = ウィルソンの『LIKE A BROTHER』(01年/シカゴのロバート・ラム、ビーチ・ボーイズの故カール・ウィルソンとのトリオ)があったくらいである。

収められた13曲中10曲は、ジェリーの書き下ろし。残り3曲は、スピリットの<Nature's Way>、ジェリー&ザ・ペースメイカーズの<Don’t Let The Sun Catch You Crying>、ジェリー・ラファティの<To Each And Everyone>というカヴァーだ。そのチョイスには、なるほど!と膝を打つような感覚があるけれど、彼が自分のアルバムでこんなに積極的にカヴァー曲を取り上げたのは初めて。でもそのいずれもが70〜71年頃の楽曲で、ジェリーがロンドンでアメリカを結成してデビューに至る頃にヒットしている。そうした時期にジェリーや他のメンバーたちが親しんだ曲なら、アメリカの音楽性に何らかの影響を与えた可能性があるし、それこそバンドのリハーサルやライヴで歌われていたのかもしれない。

そう、このアルバムは、全体的にジェリーのルーツを垣間見せたような作品なのだ。<Tokyo>という曲でスタートすることは日本のファンには嬉しいが、それ以上にビートルズ・フリーク、リヴァプール・サウンドに感化されたジェリーの姿が窺える。アメリカ譲りのフォーキーなナンバーやまったりカントリー、はたまたハワイアン・コンテンポラリー・テイストを孕んだ楽曲もありながら、トータルでは甘酸っぱいメロディに満ち溢れ、何処か物悲しいブルティッシュ・テイスト。ビートルズのDNAが湧き立つ<Minutes Count>、ビートルズとシカゴが束になって忍び来る<Lifeline>には、心を掻きむしられるほどの郷愁感があるなぁ。

少年のようにナイーヴで、耳に柔らかなジェリーの歌声は、以前とまったく変わらず。演奏のほとんども、ジェリー自身のワンマン・パフォーマンスだ。そこに愛弟子的存在のジェフ・ラーソンがバック・ヴォーカル兼エンジニアとして、盟友ジェリー・フォスケットがバック・ヴォーカルで参加している。サックスのラリー・クライマスは、ジョン・ヴァレンティがいたモータウンのブルー・アイド・ソウル・グループ:パズルの出身。

振り返れば、アメリカがビーチ・ボーイズ結成50周年ツアーのオープニング・アクトとして来日したのが、12年夏のことだった。あれからもう4年が過ぎたとは、俄かに信じ難いけれど、そろそろこの甘酸っぱい少年声をナマでシックリ堪能したいぞ。ちなみにライナーは、拙担当です…。