clapton_sandiego
エリック・クラプトンが末梢神経障害により、ギターが上手く弾けなくなりつつある、というショッキングなニュースが届いたのが、ホンの数ヶ月前のこと。そうしたブランクを意識してか、10年近く前にライヴ・レコーディングされていた音源が、素晴らしい2枚組アルバムとして登場した。名付けて『LIVE IN SAN DIEGO with Special Guest JJ CALE』。

J.J.ケイルとの共演であることから、これが2人の共演作『ROAD TO ESCONDIDO』(06年)にまつわるライヴだったことは、すぐに推察できる。でもそれ以上に重要なのは、この06〜07年のワールド・ツアーは、デレク・トラックス、ドイル・ブラムホール II という新鋭ギタリストを従えてのトリプル・ギター編成だったこと。しかもリズム隊はスティーヴ・ジョーダン(ds)にウィリー・ウィークス(b)、鍵盤の一方に参謀役クリス・ステイントンという豪華布陣。セットリストもデレク&ザ・ドミノス時代のナンバーを中核に据えていた。

このツアーは06年11〜12月に日本へ来ていて、カナザワも地元さいたまスーパー・アリーナでそれを観ている。その時のポストを読み返したら、「自分が知る限り、クラプトンの今までの日本ツアーの中で、1,2を争う出来なのではないか」と書いていた。このサンディエゴ公演は、ジャパン・ツアーから年を跨いでの07年3月。おそらく良いノリを維持したままクリスマス休暇でリフレッシュし、全米ツアーに突入、J.J.ケイルとの共演でハイライトを迎えたのだろう。

実を言うと、CDが届いてすぐにパッケージを開けたワケではなく、所用で都内へ行く際に持って出て、車の中でシールを剥がし、そのままカー・ステレオに投入した次第。インサートにクレジットされたメンバーまでは確認せず、そのまま音を聴いた。そしてド頭<Tell The Truth>の重いビートを聴いて、「これはもしやスティーヴ・ジョーダン? このスライドはデレク・トラックス? …ということは、あのデレク&ザ・ドミノス再現ツアーかッ

既に車は首都高に入り、ハンドルを握っていてはクレジットを確認できない。でも曲が<恋は悲しきもの>、<Little Wing>と進むにつれて、それは確信に変わった。特にデレクの流麗なスライドが光っていて、指弾きのような速いフレーズもたやすくバーから繰り出す。それに煽られてか、御大のソロも自然と熱が入り、ヴォーカルも籠めた感じに…。日本公演では中盤にアコースティック・セットがあったことを思い出していると、そこにJ.J.ケイルが登場し、クラプトンと5曲デュエット。うち3曲は当然『ROAD TO ESCONDIDO』の楽曲だったが、登場して2曲目は挨拶代わりの<After Midnight>。これまでのクラプトン版より遥かにルーズなアレンジだが、とにかくオーディエンスの反応が凄まじい。J.J.の出番は、通常ラストにプレイされる<Cocaine>で終了(CDではディスク2の1曲目)。

そのあとは、スライドのユニゾンが炸裂する<Motherless Children>を皮切りに、ブルース大会へ突入。本編ラストはお馴染み<Wonderful Tonight >、そしてオリジナル・スタイルの<Layla>へ。このエレキ版<Layla>も、ステージでギター3本による演奏はそうないはずで、かのデュエイン・オールマン入りのスタジオ・ヴァージョンを髣髴させる。

これまでカナザワは、数多いクラプトンのライヴ盤から1枚選べと言われたら、75年発表の『E.C. WAS HERE』を挙げてきた。比較的淡々としたライヴ盤が多い人だが、この新作ライヴは期待の若手と豪腕黒人リズム・セクションに煽られてか かなりの熱気に溢れていて…。それこそ名盤『E.C. WAS HERE』に匹敵する充実ぶりなのだ。そしてアンコールの<Crossroad>では、このツアーでフロントアクトを務めたロバート・クレイも共演、というオマケまでついている。

こんな名演ライヴを10年近くも寝かしていたなんて、クラプトンは何て罪な人なの? ファンへのお詫び代わりに、今度はコレの映像完全盤(断片はYoutubeに)を持ってらっしゃい