yuko iwasaki
久々の【Light Mellow 和モノ】シリーズのオリジナル・アルバム復刻は、キング・レコード発の2枚。今日はまず、いわさきゆうこ のワン&オンリー作『MAGICAL LIQUEUR(マジカル・リキュール)』をご紹介しよう。

「いわさきゆうこ? 誰それ…?」
という声がアチコチから聞こえてきそうだが、岩里祐穂、といえばピ〜ンと来る人も少なくないだろう。今年、活動35周年を迎えた売れっ子作詞家で、今井美樹への楽曲提供で有名。ほかにもアン・ルイス、中山美穂、布袋寅泰、坂本真綾、中川翔子、新垣結衣、ももいろクローバーZ、Sexy Zone等など、実にバラエティに富んだラインナップに詞を書き、エッセイストとしても本を出している女性だ。今年はアニヴァーサリー・イヤーということで、彼女が作詞した楽曲を集めた記念アルバム『Ms.リリシスト』を発表。今回の再発も、その一連のアニヴァーサリー企画として発案された。

何かありそうな都会的アートワークに、芳野藤丸/松原正樹(g)、長岡道夫/岡沢茂(b)、佐藤準/羽田健太郎(kyd)、吉川忠英(ac-g)、ペッカー(perc)といった著名セッションマンたちの名がズラリ。コーラスには BUZZ のクレジットもある。そしてリリースは80年。シティ・ポップスなら、思わずソソられる条件が揃っている。

かくしてその歌は、ちょっぴり佐藤奈々子 似で。アマチュア時代の佐野元春と知り合い、2人の共作を携えて77年にデビューした奈々子は、ちょっとアンニュイな甘めのウィスパー・ヴォイスが魅力だった。歌のスキルで勝負するというより、歌詞の意味を半ば囁くように、憂いを含んだ声の表現力で聴かせていくタイプ。ほんのりジャジーなセンスを纏いつつ、ボサノヴァやサンバのビートを取り入れ、ソフト・ラテン・テイストを絡めて艶っぽくまとめている。いくつか歌謡曲っぽいナンバーもあるが、あまり古臭さは感じさせず…。それどころか、<ルイーザの夢>は昨今の和モノ・イベントなら大合唱モノの灼熱パーティ・サンバだし、<ふたりのイエスさま>というクリスマス・ソングは、マリア・マルダー風味のオールド・ファッションなラグタイム・チューン。これが山下達郎<クリスマス.イヴ>よりも早く出ていた点に、後に作詞家として成功する彼女のセンスが表れていた気がする。

しかし当時は鳴かず飛ばず。詞にこだわった言葉数の多い楽曲は、AOR指向が強かったこの手のサウンドにはフィットしなかったのかもしれない。後の彼女を知っていると、その言葉選びの巧みさに舌を巻くしかないのだが…。

結局彼女は程なくして作家デビュー。最初の頃に使った“岩里未央” という名前は、やはり【Light Mellow 和モノ】シリーズで再発した大宮京子&オレンジのリーダー:三浦年一とのユニット名だったという。

今回の初CD化では、デビュー曲<幾千万の夜を越えて>のシングル・ヴァージョンと、アルバム未収のシングル曲をボーナス収録。シティ・ポップス好きも作詞家:岩里祐穂のファンも、ぜひ再評価すべし、です。