bobby martin
拙ガイド本『AOR Light Mellow』掲載ネタが、フランスの新しい再発レーベル:Sunset Dreamsから世界初リイシュー。このレーベルは、メロディック・ロックのユニット:AORを率いるフレデリック・スラマが興したもので、往年の作品をアナログとCDで同発していくそう。ただしアナログとCDは別売りではなく、抱き合わせの封入販売。CD欲しけりゃアナログを買え!って話だ。最近AOR系を再発する欧米レーベルは、どうもCDではなくアナログでの復刻に移行しつつある。

さてこのボビー・マーティンは、本名をロバート・A・マーティンといい、オーリアンズやフランク・ザッパ&マザーズに在籍したサックス/鍵盤奏者。80年代中盤にはマイケル・マクドナルドのツアー・バンドに参加したほか、ポール・マッカートニーやスティーヴィー・ニックスとの活動歴を持つ。ソロ・アルバムは、83年に発表されたこの一枚だけ。当時は日本発売されず、ほとんど話題にならなかった。その後もザッパ周辺のマニアにチェックされたようだが、中身は完全なるAORなので、そこでもやっぱり話題にならず。カナザワがガイド本に乗せても、盤が意外に珍しいので、やっぱりあまり注目されず、ほとんど八方塞がりだった。

でもザッパに見込まれただけあって、実力は確かすぎるほど確か。偶然LPを手にしたAORファンが、「安かったんで買ってみたら、メチャクチャ良くて驚いた」と言われたのを覚えている。ただレーベルが日本では発売しにくいCurb Recordsなので、これまで手が出せないでいた。でも今回許諾を下ろしたのはアーティスト自身。なーんだ、そういうコトだったのネ。

参加ミュージシャンがマイケル・センベロ/バジー・フェイトン/ローレンス・ジュバー(g)、ドン・フリーマン(kyd)、デニス・ベルフィールド(b)、ポール・レイム(ds)、ウォーターズ/カル・デヴィッド/ジェフ・リーブ(cho)等などと、ちょっと気になる名がポツリポツリ。ジェフ・リーブは元ピーシズで、後のジェフ・パリスといえば分かりやすいか。作曲陣にはスティーヴ・キプナーもいる。そしてプロデュースが、マイク・カーブの右腕マイケル・ロイド。クリス・クリスチャンとコットン, ロイド&クリスチャン、クリス離脱後はキプナーを入れてフレンズを組んだ才人だ。ロイドのソロ作や、彼がレイフ・ギャレットやショーン・キャシディを手掛けていたことからポップ・メイカーのイメージが強いが、この時期はシッカリ、AORアプローチを試みていたコトになる。職人肌のミュージシャンであるマーティンをAORフィールドに止めたのは、きっと彼の手腕だろう。

で、コレが、まさに王道のウエストコーストAOR。そこに軽快なシャッフル、産業ロック風ナンバー、ゴスペル風味のアーバン・ソウルが混ざり、実によい塩梅に仕上がっている。ただ彼のヴォーカルがちょっと濃い口で…。声質がやや籠り気味なのもあってか、ソウルフルを通り越して、無駄に暑苦しい。そこだけ目をつぶれば、もっともっと高く評価されて然るべき好盤なのだ。しかもキャリアから分かるように、アレンジがなかなか緻密で、ホーンを効かせた楽曲はシーウインドを髣髴させたりする。故にフリーク必聴のヒドゥン・トレアジャー的一枚なのだ。

なお、これも1000枚限定リイシューとのことなので、気になる方はお買い逃しなく。ちなみに Sunset Dreams再発第2弾には、スティーヴ・ルカサー制作によるステファン・クラインが準備中とか。うーん、これとは一転、アレは要らんわ



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