john legend 016
グラミー10冠 + オスカーという輝かしいキャリアを歩んでいる黒人シンガー・ソングライター、ジョン・レジェンドの新作が届いた。個人的に印象に残っているのは、コモンとの共演で作り上げた映画『グローリー〜明日への行進』(14年)の主題歌<Glory>が、アカデミー最優秀歌曲賞に輝いたこと。それも含めて、新しいステージに立つ彼を示した作品になっている気がする。

アルバム・タイトル『DARKNESS AND LIGHT』が象徴するように、アルバムの作りが内省に向かっているのは確か。<Right By You(For Luna)>みたいに、誕生したばかりの愛娘をテーマした楽曲もある。でもそうした普遍的テーマを心の内側に刻んだからこそ、そのパワーが外へ向かっているというか…。

ヒップホップやラップはほとんど聴かない自分にとって、初期のジョンには、あまりノレないドープな部分があった。しかしこのアルバムではそうした面は影を潜め、むしろシンプルかつオーガニックな仕上がりに。初期からの相棒デイヴ・トーザー、エグゼクティヴ・プロデューサーだったカニエ・ウェストの名もクレジットから消え、全曲をブレイク・ミルズがプロデュースしている。ブレイクというと、オルタナ・ロック系のギタリスト/プロデューサーというイメージが強く、最近の共演ではウィーザーやロビー・ウィリアムズ、ノラ・ジョーンズ、ダイアナ・クラールなどが記憶に残るところ。エリック・クラプトンのクロスロード・ギター・フェスティバルにもフィーチャーされていたっけ。何より、ジョンが最近一番愛聴していたというアラバマ・シェイクス『SOUND & COLOR』をブレイクが手掛け、彼らを一段高いレヴェルへと引き上げていた。

そのブレイクの起用がコチラでも功を奏したのだろう、生楽器が大きく幅を利かせたサウンド・メイクになり、スケール感が増した。彼自身の内面の変化と、サウンドの指向性がピタリ一致し、このアルバムをよりピュアーにしている。ヒップホップ作品にありがちな強引さや力任せの独りよがりが目立つ音作りではなく、インナー・ワールドから滲み出てくるスピリチュアルな歌と音。ゲストには、アラマバ・シェイクスのブリタニー・ハワード、ミゲル、そしてチャンス・ザ・ラッパー。演奏陣には、ディアンジェロのブレーンでもあるクリス・デイヴ(ds)やピノ・パラディーノ(b)が参加している。

元から人種を超えた支持を受けたジョンだったけれど、そうしたクロスオーヴァー指向をあまり感じさせない、それでいて高い次元での普遍的人間愛を歌い始めた作品といえそうだ。