heart 016
ふと気がつけば、ライナーを書かせてもらった前作『FANATIC』から、早4年が過ぎている。いつの間にか今度のハートは、名門コンコードへ移籍してニュー・アルバムを出していた。暑い時期のリリースだったのに、今も何のインフォメーションもないということは、どうやら日本発売は見送られたみたいね、ユニバーサルさん…

実のところこの新作、完全なるブラン・ニュー・アルバムというワケではなく、全10曲中7曲はセルフ・カヴァー。アルバム・タイトル曲でオープニングを飾る<Beautiful Broken>は、前作『FANATIC』のデラックス・エディションに収録されたボーナス・トラックで、今回はそこに手を加え、メタリカのジェイムス・ヘットフィールドをゲスト・ヴォーカルに迎えてのリ・レコーディング/準新曲となっている。

もうひとつの話題曲は、Ne-Yoが曲作りに参加したバラードの新曲<Two>。80年代のハートが得意としたアリーナ・ロック系パワー・バラードとは違って、ジワジワくる歌い込み系スタイルがナイス。<I Jump>なる新曲では、ベテラン:ポール・バックマスターがストリングス・アレンジを担当し、レッド・ツェッペリン<Kashimir>を髣髴させる東欧風オーケストレイションを施した。バックマスターは他のセルフ・カヴァー曲にも関わり、それがウィルソン姉妹のルーツ及び今作での狙いを浮き彫りにしている。

一方セルフ・カヴァーのチョイスが、またなかなか興味深く。ハートの代名詞たる初期名曲群や、チャートを席巻した80年代後半のヒットの数々は、まるで無視しているのだ。そして7曲中6曲を、その間の低迷期のアルバム『BEBE LE STRANGE』(80年)、『PRIVATE AUDITION』(82年)、『PASSIONWORKS』(83年)からピックアップ。ドッシリと腰の低い、重厚なサウンドメイクで畳み掛けてくる。初期のような濃いクチ系アコースティック・サウンドも適当に散りばめてあるのも、オールド・ファンには馴染みやすいところ。アンとナンシー姉妹以外はメンバーを固定しない、というのが今のハートらしいが、00年代の本格的活動再開後は音楽的なブレも少なく、自分ちのシグネイチャー・スタイルを追求している。

御歳65というアン姐さんも、相変わらずパワー全開で。実際彼女は今ノリノリなようで、昨年からソロ名義によるミニ・アルバム体裁のカヴァー集(アレサ・フランクリン、レイ・チャールズ、バッファロー・スプリングフィールド、ジミ・ヘンドリックス、ピーター・ガブリエル&ケイト・ブッシュらのカヴァー+新曲)をシリーズで発表している。ハートとしての映像作も続々リリースしているので、そろそろライヴを観ておきたいかも…。