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フリートウッド・マックの82年作『MIRAGE』の拡大版にトライ。国内でのリリースは、2016年リマスター単体と、それにアウトテイク&セッション集を足した2枚組の2タイプをリリース。ところが海外では、この2枚に82年のライヴ、5.1chサラウンド・ミックス、アナログ盤を追加した3CD+DVD+LPのデラックス仕様が限定発売されている。こういうのが出してもらえない辺りにマックの日本での人気の低さが現れているワケだが、ライヴ盤とサラウンドをチェックしたいカナザワは、迷うことなく輸入盤をゲットした。

リンジー・バッキンガムとスティーヴィー・ニックス加入後の大ヒット作『FLEETWOOD MAC(ファンタスティック・マック』と『RUMOUR(噂)』の陰に隠れ、実験精神旺盛な2枚組大作『TUSK(牙)』にも迫力負けしている、この『MIRAGE』。元々男女関係がヤヤこしい上に、この頃はフロント3人も急進的なリンジー vs 保守的な女性陣という構図があったらしく、バンド内はまるでバラバラだったとか。それでも一定のクオリティでアルバムを出してきたのは、大物バンドとしてのプライドとリンジーの調整力の賜物だろう。

オリジナル・アルバムには『TUSK』の延長のようなカントリー曲やフォーキーなナンバーが少なくないが、我々がイメージするマックらしさを演出しているのは、やはりスティーヴィーやクリスティンの女性陣。特にアウトテイク&セッション集を聴くと、アルバムに収録された曲も、その原型はもっとアグレッシヴで冒険的だったり、アーリー80'sらしいサウンド・メイクを施されていたことが分かる。それを削いでいって、時代に流されにくい作品へと昇華させていったプロセスが、この拡大版で明らかになった。

それとやはり、5.1chサラウンドのクリアーな音に聴き惚れてしまい…。このところジェフ・ベックのクアドラフォニック盤とかイエス『海洋地形学の物語』など70年代前半〜中頃の作品のマルチ化の音が自分の中でデフォルトになっていたけれど、80'sモノだとこんなに音がクリアーなのか!と改めて驚愕。マックだから生音やヴォーカル・ハーモニーが多くて音作りが素直、という特徴はあるにせよ、アルバムは素の状態でも音が良く、それがリマスター/サラウンドで、より一層クッキリした音になっている。それこそスネア・ドラムのスナッピーの鳴り、ライド・シンバルの響きの輪郭が浮かび上がってくるような…。ヴェールが天から舞い降りるが如きヴォーカルの重なりも、その一重ひとえが手に取るよう。ロック・ファンには軽く見られがちなマックだけど、それこそ下手なムード・プログレよりも、よほど凝った音作りを行なっている。

アルバムに詰ま込まれた音楽そのもののクオリティは、やはり『ファンタスティック・マック』や『RUMOUR』の勝利だとしても、これだって決して軽く受け流してイイ作品ではない。逆に地味な存在に甘んじている作品がコレだけ濃ゆいと感じるのは、如何に彼らが真摯に音楽制作に打ち込んでいたグループだったかを教えてくれる、ひとつのバロメーターになる。

なお、近々改めて取り上げるが、今までずーっと未CD化できていたバッキンガム=ニックスの唯一の作品が、いよいよ待望の世界初CD化。ボーナス・トラック11曲入り、紙ジャケット仕様で、こちらは3月に発売予定。今から超楽しみ!