四人囃子 anthology
70'sの日本のロック勢で、カナザワが一番夢中になって聴いていたバンドのひとつが、この四人囃子である。実質的デビュー盤『一触即発』が騒がれ始めた頃、中学生だった自分は行きつけのレコード屋でそれが買えず(メーカー品切れで入荷未定と言われた)、地元の店を何軒か回って、ようやく飲み屋街の一角にあった演歌中心の個人商店で、ようやく発見した。そのお店でレコードを買ったのは、後にも先にもそれ一回。そのレコード屋も間も無くなってしまった。だがその時手に入れた『一触即発』は、43年後の今もかなりの愛聴盤になっている。<空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ>のCDシングルがついた2枚組CD、それに紙ジャケCDも買ったが、どうも四人囃子、特に『一触即発』と次の『ゴールデン・ピクニックス』に関しては、何故かアナログ盤で聴きたくなってしまうのだ。大学時代のバンドでは、<一触即発>を完全コピーしてたし…。

そんな思い入れたっぷりの四人囃子アンソロジー『錯』が、 2CD+DVDの3枚組でリリース。ちょうど3月発売になる元メンバーのソロ作の解説を2点ほど書かせてもらっているので、モードは完全に四人囃子になっていたのだ。

このアンソロジーのうちCD部分は、01年発売の『FROM THE VAULTS』と08年の『FROM THE VAULTS 2』からチョイスした音源をリマスタリングし、スタジオ・テイク/ライヴ・テイクに再構成したもの。DVDは08年に行われたライヴ『ROCK LEGEND '08』の模様を中心に、02〜03年のライヴを追加している。実のところ、現時点ではまだ映像の方なチェックできていないのだけれど。

それにしても、このアンソロジーを聴いて、改めて「スゴいバンドだったなぁ〜」と実感。スタジオ・テイクはデモ・ヴァージョンやスタジオ・ライヴでの収録が多いが、複雑な構成の楽曲でもほとんどソラで追えるので、アルバム・ヴァージョンとの違いがよく分かる。それでいてヒネった選曲ではなく、まさにアンソロジー。グループ側としては、3年前に亡くなった佐久間正英追悼の意も込めているそうだ。

一般的に、日本のプログレの代表格として扱われる四人囃子だけれど、それはピンク・フロイドやイエスに感化された部分が『一触即発』に多いから。一方でユーライア・ヒープとかハード・ロック勢からの引用も垣間見られるし、ユーモアいっぱいのクロスオーヴァー作品である『ゴールデン・ピクニックス』は、早くもプログレの範疇から溢れ落ちていた。このアンソロジー発売のプロモーションで、リーダー岡井大二(ds)は、「四人囃子が目指したのは、ジャンルとしてのプログレではなく前衛ポップ」という旨を強調している。でもそれは、3作目『PRINTED JELLY』以降の作品群を聴けば明らか。当時はテクノ仕掛けのニュー・ウェイヴに向かったことに驚きを禁じ得なかったが、そこに名プロデューサー:佐久間正英の成長を育んだ磁場があったワケだ。

それでも、やっぱり代表作と言えば佐久間参加前の『一触即発』になる。あれだけ甘美なロック・ギターを弾く日本人ギタリストは、森園勝敏の後にも先にもいないと思うし、岡井大二ほどドライヴするロック・ドラマーも出ていない。バイ・プレイヤー的なのに不思議な存在感がある坂下秀実のKydも、また然り。

森園在籍時のオリジナル四人囃子を観たことはなかったが、佐藤満加入後のライヴはレインボーの前座などで観ているし、椅子をすべてアルミホイルで包んでしまった伝説の日比谷野音公演『包(BAO)』にも足を運んだ。あれは元々客席全体を幕で『包』してしまう計画だったが、消防署の許可が出なかったらしい。そういえばあの時のアンコールは、確か森園がゲスト参加しての<一触即発>だったっけ。再結成後は、スモーキー・メディスソとのジョイント・ライヴを観たな。

そうした自分の音楽史の一端を見せつけられる、このアンソロジー。こりゃー映像の方を見始めたら、絶対仕事が手につかなくなるな。