higurashi_everlasting
70年代に活躍した叙情派フォーク3人組、日暮し。コロムビア〜ビクターで5枚のアルバムを発表し、77年に<いにしえ>をオリコン14位のヒットにしたグループだ。その日暮しの未発表&レア・トラックス集『エヴァーラスティング』に、解説を書かせて戴いた。

日暮しのリーダーでメイン・ソングライターの武田清一は、RCサクセションの前身グループ:The Remainders of The Clover 出身。リード・ヴォーカル:榊原尚美は、グループ解散後に “杉村尚美”として<サンセット・メモリー>を大ヒットさせている。もう一人のメンバー:中村幸雄は、目立たないながらも緩衝材的役割を担い、グループ内では重要な存在とか。デビューは73年。ビクター移籍後の『ありふれた出来事』(77年)、『記憶の果実』(79年)で井上陽水や小椋佳を成功に導いた敏腕プロデューサー:星 勝と手を組み、日本的メロディに洋楽ポップスのエッセンスを滲ませる手法を確立した。

その日暮しの武田さんから突然のコンタクトがあったのは、昨年11月のこと。未発表音源集をリリースするので解説を、という依頼だった。『ありふれた出来事』『記憶の果実』が豪華仕様で15年に初CD化された時、当ブログで『記憶の果実』を紹介したのだが、そのポストを武田さんと星勝さんがご覧になっていた、というのである。ヒェ〜

実を言えばそれ以前、ガイド本『Light Mellow 和モノ』の初版本『Light Mellow 和モノ669』(04年)に『記憶の果実』を紹介し、その中でも一番シティ・ポップ寄りの楽曲<風を光らせて>を、同年編成のコンピ『Light Mellow SKY』にセレクトした。そのガイド本の増補改訂版『Light Mellow 和モノ Special』への再掲載(13年)、15年発売のコンピ『Light Mellow SIGNAL』への<風を光らせて>再収録は、いわば自分にとってはリヴェンジであり、その後のオリジナル復刻は、自分の仕事でもないのにとても晴れやかな気持ちになった。続いてアナログ盤が発売されたのは驚いたが、その流れで今回未発表音源集が出て、自分がそこに寄稿することになるとは、夢にも思わなかった。

さて、その未発表&レア・トラックス集『エヴァーラスティング』。中身は『記憶の果実』のアウトテイク、コロムビア時代の楽曲のレア・トラック、デモ録音のまま眠っていた音源、そしてグループ解散後の武田のソロ音源などが元で、ほとんどに少しづつ手が加えられている。そしてどの曲も、それぞれに深〜い味わいが。以前の復刻では初出音源ばかり収めた特典CDが付いたが、あれは単に発掘したテープを集めただけ。何も手を入れなかったそうだから、今回とはそもそもプロダクツの方向性が違うし、同じ楽曲もない。

中でも今作では、『記憶の果実』の流れにそぐわないと未発表になった<海から帰った夜>、3rdアルバム『街風季節』所収で今回新たにストリングスを加えた<心の弦をふるわせて>(作詞:松本隆)が、特に聴きモノ。榊原尚美の清楚な、しかし芯があって凜とした歌声も、ずーっと耳に残る。こういう歌声の女性シンガーって、最近はほとんど聞かないなぁ…。