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日本の音楽界の至宝と呼びたい名セッション・ギタリスト:松原正樹がガンで旅立って、もうすぐ一年。その一周忌である2月8日に、遺作『旅立ちの日』がリリースされる。その音を、奥様の南部昌江さん、松っつぁんのレーベル:Rocking Chairを仕切る山口さんからお送り戴いていたので、命日/発売日を前にご紹介しておきたい。もちろん、改めてお悔やみの気持ちを込めながら…。

このアルバムは、松っつぁんが生前にプロツールス・データに記録していた未発表曲の断片を、昌江さんや仲間たちが発展させて完成に至ったもの。イントロやエンディングもなく、アレンジらしいアレンジも施されていなかったギター・パートの音源が、HDDから10曲分発見され、それがこのアルバムの基礎となった。その幾つかは、14年発表の還暦記念アルバム『現実と幻覚』用に書かれたものだそうだ。

クレジットを確認すると、すべてのギターが松っつぁんのプレイ。当然のこと、後付けアレンジによってループされたり、ペーストやエディットされた箇所があると思うが、基本パターンの演奏がシッカリ残されていなければ無理な話だ。リリース・スケジュールが見えないと曲を書かない、なんてミュージシャンが多い中、普段から時間を見つけてはギターを抱え、メロディを考えたり、デモ録音に勤しむ。そんな松っつあぁんの “音楽の虫” ぶりが、こうした形での遺作完成を可能にした。

とはいえ作品の評価に関しては、あまり感情移入せず客観的に…、というのがカナザワのモットー。でもね、このアルバムは、近年の松原作品とは少し違った色彩感を放っており、それがスゴく素敵に響くワケです。個人的に感じるのは、初期ソロ作品群、延いては70's の古き佳きクロスオーヴァー・ミュージックに通じるテイスト。ギターを筆頭にすべての楽器の音がナチュラルで、過剰なエフェクトがない。シンセのトーンもアナログっぽくて、やんわりと耳に馴染む。春名正治のソプラノ・サックス、佐野聡のトロンボーンあたりは本当に味があって、松っつぁんもきっと草葉の影でほくそ笑んでるだろう。

そして何より、松っつぁんのメロディメイカーとして側面がクローズアップされ、楽曲の良さが自然に浮かび上がってくるところが素晴らしい。これはおそらく、デモのつもりでサラリと弾いたギター・パートを元に作ったため、アレンジも演奏も盛り込みようがなく、結果的に楽曲のメロディが映える形になったのではないか。後から肉付けされた参加メンバーのプレイも、また然り。全員が故人のプレイにそっと寄り添う、ジワジワと語りかけるような演奏を繰り広げている。昌江さんは夢の中に出てきた松っつぁんから「シンプルにね!」と言われたそうだが、遺されたギター・トラックを惹き立たせる工夫を施しただけで、その答えが見つかった。

前述の方たち以外で晩年の安息地となった那須の自宅兼スタジオに集まったのは、島村英二/石川雅春(ds)、岡沢章/入江太郎(b)、斉藤ノヴ(perc)など。遺影を挟んでの彼らのフォト・セッションも微笑ましく、みんな目に見えぬ松っつぁんの存在を何処かに感じ取っていたのではないか、と思える。村上ポンタ秀一、高水健司、八木のぶお(harp)は、スケジュールの問題か、都内でのレコーディング。

限られた音源を元に作ったアルバムゆえ、ギター演奏だけで判断すると、もしかして物足りなさが残るかもしれない。でもそうしたテクニカル面を補って余りある音楽の素晴らしさ、愛すべきミュージシャンたちの心意気がココにある。それを分からなければ、良き音楽リスナーになれはしない。

改めて言わせてください。
ありがとう、松原正樹